区民・事業者・練馬区等がともに地球温暖化防止をめざす

第2期くらしのエネルギー・スキルアップ講座

第4回講座レポート

第一部 講演「自然のチカラを活かしたエコ住宅とは」

山田 浩幸氏

第二部 補足説明「高遮熱塗装、HEMS」

東京ガス(株)

開催日時:平成29年2月3日(金)10時~12時
開催場所:練馬区役所19階 1903会議室

第一部 講演「自然のチカラを活かしたエコ住宅とは」

講師:環境エンジニア 「エアコンのいらない家」著者
山田 浩幸 氏

1 エアコンのいらない家

 皆さんが家を建てる時の要望は何でしょうか。実は「普通の家を作ってもらえますか」と言われる方がほとんどです。実際にありがちな普通の家を建て住み始めます。しかし、夏は暑い、冬は寒い、湿気がこもるといった目には見えない諸問題が出てきます。解決するために、エアコン、ヒータや除湿機などの設備機器が投入されます。設備機器が多く電気代がかかるから太陽光発電を入れるという方もいます。快適な家を作るために、設備をどんどん導入し、快適な室内環境を維持する足し算方式です。

 家は、高気密・高断熱住宅に住んでいれば快適と信じている方が多いですが、実際は違います。確かに、高気密化、高断熱化すればエアコンの稼働率が減って、電気代も二酸化炭素の排出量も削減できます。しかし、これは空調機器を使うことが大前提になっています。

 あるハウスメーカーが調べたアンケートによると、家づくりで後悔したことの第一位は室内環境で、全体の約40%になっています。そこで、エアコンのいらない家につながっていくのですが、快適な住環境を作る手段として、全く逆の発想で出来るだけ空調機器に頼らず、建物で快適性を作っていきます。引き算方式で考えていきます。これは、私が設備設計者であるからこそ出来ることだとも言えます。

 人が人らしく快適に暮らすためには、自然の摂理に逆らわない設計が必要で、自然のチカラを活かし、なるべく室内を快適に過ごす家づくりをするためにはどうしたらよいか、冬と夏の季節ごとに解説いたします。

 冬の場合は、1つ目は、とにかく、たくさんの日差しを取り込むことが重要です。晴天時に1m四方の窓から入ってくる日射パワーは、大体100w/hで、10平米あったら1,000W/hになります。これは、ちょっとした電気ヒータ程度の暖房効果があります。

 日差しをたくさん取り込むためには、方位や形状に注意が必要で、窓が南側に大きく開いているような形状にすると、冬の日差しが多く取り込めます。

 2つ目は、熱の移動をコントロールすることです。家に入ってきた熱は下から上にどんどん上昇するので、上に暖かい空気が溜まって、足元は寒くなります。これは、設備を利用し、上に溜まった暖かい空気をファンとダクトで床下に送ります。これで、家の中の空気をかき回すようにして、家全体に暖気を循環させます。

 3つ目は、窓から出入りする熱の抑制です。窓から出入りする熱は、夏に屋外から入ってくる割合が65%、冬に出ていく割合は45%程度です。屋根や壁に高断熱材を使用して断熱を強化しても、窓の断熱性を高めないと効果は薄いです。

 夏の場合は、1つ目は、冬とは逆にできるだけ日差しを入れないようにすることが重要です。窓から入ってくる日射パワーは、南向きの窓と比較すると西側で6倍、東側は5倍の強さの日射パワーが入ってきます。もし、今お住まいの家で、夏が暑いという方は、西側、または東側の窓が大きく開いている可能性があります。

 夏の日差しを入れないために、遮光をする必要があります。普通の透明な窓ガラスだけでカーテンをしないと80%の日差しが入り込み、カーテンをした状態だと60%の日差しが入り込みます。どちらにしろ、あまり効果はないです。遮光の効果が高いのは家に入る前に外で遮断してしまうことです。昔ながら使用しているスダレやヨシズが活躍し、これらを使用すると、日差しは20%程度しか入り込みません。屋外用の特殊なブラインドなどもあります。夏の遮光は、窓の外で行うことが基本となります。

 2つ目は、空気を動かすように風の通り道を作ることです。地域(土地)と、季節で風の向きは違います。東京では、夏は南から北、冬は北から南へ抜けることが多いです。風の向きを読み、風の道を作ることが重要です。

 風の通り道を作る手段として、高さを利用します。先程も言いましたが、暖かい空気は上に溜まります。上の方の窓を開けると、上昇気流が起こり空気は動きます。高さがあると建物の上下間の温度差が大きくなって、気流が動きやすいです。また、当たり前ですが入口と出口の窓がないと風は通りませんので、それも考える必要があります。

 冬は日差しを取り入れ、夏には日差しを切る。簡単に聞こえますが、これを両立させることは実際すごく難しいです。もし、皆さんがハウスメーカーに、このような家を建てて欲しいと依頼をしても、ハウスメーカーの場合は、独自の規格に沿って設計していくため、その土地に合ったものにモデルチェンジすることはできません。実は、実際にハウスメーカーから、エアコンの要らないエコ住宅の共同設計を依頼されたことがあります。しかし、いろいろ話していくうちに、ハウスメーカーでは対応できないということがわかりました。

 では、工務店に、「自然のチカラを活かした家を作ってください」とお願いしたらできるのでしょうか?こちらも残念ながらできません。工務店は家を建てる技術力は優れていますが、設計能力はほとんどありません。では、建築家にお願いした場合はどうかというと、建築家は基本的に、自然のチカラを活かした家というものに全く興味がないようです。

 私は設備設計者ですが、建築家から仕事を受けて、設備設計をすることがほとんどです。建築家はまず、構造設計者と打ち合わせをし、建物の形状や間取りなどのほとんどを決めてしまいます。決まった状態で、設備設計者に図面が回ってきて、その図面を見て、設備を導入していきます。そのため、設備設計というのはいつも後回しになってしまうのです。

 この建築設計業界の仕組みを変えない限り、本当の意味の省エネ住宅を作ることは難しいと感じています。

 昔の家づくりには自然の力を利用する技術がありました。それが1960年代以降、エアコンがでてきて、家の快適性を何とかしてくれる、ということで家の作り方が大きく変わりました。

2 事例の紹介

 実際にエアコンのいらない家が設備設計された事例がありますので、紹介します。

 2016年に竣工した宮城県の東松島市立宮野森小学校です。ニュース等で報道されて話題になりました。この小学校は、まさにエアコンのいらない、自然のチカラを活かすために作られたものです。小学校の教室棟の窓は全部南側を向いており、自然光がたくさん入ってきます。実際12月の凄く寒い日に私も訪れたのですが、建物に一歩入ったら凄く暖かかったです。でも、エアコンはほとんど動いていませんでした。当然エアコンは設置していますが、電気代は普通の建物の半分程度で済むと思います。

 練馬区では、私が設備設計を担当した、土支田(納屋森)の集合住宅がありますが、こちらも窓は全て南向きに配置しています。

 私が、「エアコンの要らない家」の本を出してから、エアコンのいらない家を建ててくださいという依頼が何件かありました。皆さん実際に家を建てて暮らしてから何年か経っていますが、どのお宅も、エアコンを一回もつけていないそうです。これは、とてもすごいことです。極端な例になってしまいますが、本当にエアコンの要らない家、即ち、エコ住宅が実現している例だと思いました。

 皆さんがお住まいの家でも、冬に日を入れる工夫、夏に日を切る工夫を少しするだけで、家の中の環境は変わります。100動いていたエアコンが80、50となるだけで、電気代も減り、温暖化防止にもなります。

 今の20代の若者たちは、家に帰ったら、当たり前のようにエアコンがついています。建物の中が外より暑い。けれどエアコンは動いている。外よりも、エアコンの動いている室内が暑い。このことにまったく疑問を抱かない若者が増えていることをとても心配に思います。窓を開ければ、風が通って涼しいということに関心がないのです。設計にかかわっている人間として、これはどうにかしなくてはけないという思いが非常に強いです。

 高気密・高断熱の住宅は大切ですが、それだけではいけないと思います。

3 質疑応答

Q:高層ビル等では断熱性などが特殊なガラスがありますが、一般の住宅でも、そういった特殊なガラスは使っていますか?

A:ガラスにはいろいろなグレードがあり、高性能なガラスになれば、当然、値段が高くなります。どこまでお金を掛けることができるかにもよりますが、当然断熱性の高いものを使用します。日差しを切る性能についても同じことです。しかし、高性能のガラスを導入するよりも、普通のガラスで断熱、遮光の工夫をしたほうが良い場合もあります。コストとバランスの問題であり、現状あまり高性能なガラスは使われていません。お金を掛けることができれば使いたいが、なかなか難しいようです。

配付資料等

第二部 補足説明「高遮熱塗装、HEMS」

講師:ねり☆エコ会員 東京ガス(株)(東京ガスライフバルTAKEUCHI(株))

 第3回講座「埼玉県本庄市エコタウンプロジェクト見学会」内容の補足説明として行いました。「高遮熱塗装」や「HEMS」について、実際に練馬で高遮熱塗装のエコ改修やHEMSの導入をしている、東京ガスライフバルTAKEUCHI株式会社の西原 弥子(ひろこ)氏からご説明いただきました。

1 「高遮熱塗装」について

 まず、高遮熱塗装についてです。

 遮熱や断熱の塗料は、いろいろなメーカーから多くの商品、性能や成分の違うものが、世の中に出ていますが、出回っているものは遮熱塗料と呼ばれるものが多いです。

 遮熱塗料というのは、日が外壁に当たった時に、光をはね返す塗料のことをいいます。断熱塗料は、当たった光の熱を溜めこむという塗料です。今回、配付した資料は、「GAINA」という商品カタログですが、遮熱塗料、断熱塗料とは違います。「GAINA」はもともとJAXA(宇宙航空研究開発機構)が、ロケットの先端に塗るために共同開発した塗料で、中空セラミックビーズという、物凄く小さい玉のようなものが、全体の80%入っています。これにより、反射率、断熱性が共にとても高いです。夏の日の遮熱だけではなく、冬の場合は、暖房の熱が逃げにくい、という特徴があります。外壁に塗っても効果がありますが、冬は、内壁に塗っていただいたほうが、断熱の効果は高いです。

 夏場と冬場でエアコンを稼動させて、「GAINA」を施工する前と後で比べた場合に、どちらも20%以上の電気代の削減になっているという結果も出ています。

 更には、80%以上のセラミックを含んでいるということで耐久性が高く、通常の塗料よりも長持ちします。通常の断熱塗料は外壁に塗った場合は10年ほどと言われますが、「GAINA」は15年から20年ほどもちます。断熱や遮熱の性能も最後まで劣化することなく続きます。

 コスト的には、一般的に、外壁や屋根に塗装する際には、通常の塗料と比べ1.5倍になります。

 遮熱塗料は、特殊な色しかないのではないかという、お問い合わせが多いようですが、普通、一般的な壁に塗るようなアイボリー系統もあります。これは、各社いろいろな色をそろえています。反射率としては、明るい色の方が効果は高い、とメーカーは言いますが、黒い色でも、しっかりと効果はあります。

2 「HEMS」について

 次に「HEMS」についてですが、Home Energy Management System(ホームエネルギーマネジメントシステム)の頭文字を取ったもので、どのようなものかを簡単に説明すると、家の中で、エネルギーを見える化するものです。使っているエネルギーが見えるだけではなく、太陽光発電やエネファームなど、ご家庭で発電設備をお持ちの方は、今この瞬間に、どのくらい発電しているかを見ることもできます。太陽光発電だと、売電ができるので、今、電気をどのくらい「作っている」、「使っている」、「売電している」という数値を、モニターで見ることが出来ます。体重計などと同じように、電気の使用料が見えると、ちょっと頑張って電気を減らしてみようと思って、エアコンの設定温度を変えてみたりする方がいます。見えることは節電を促すことにつながります。

 「HEMS」のもう一つの機能として、電気の制御があります。家じゅうの照明を消したり、エアコンを自動で快適な温度に調節したりなどの制御をすることができます。しかし、「HEMS」に対応したものでなければ制御はできません。

 2030年までには、「HEMS」を全世界で普及させることが目標として掲げられていますので、現在、メーカーはどんどん新しい商品を開発しています。

アンケートによる感想

第一部

  • 昔の日本の家は優れていたということが知られていけば地球温暖化防止になるのではないかと思いました。
  • 設備を追加して考える足し算ではなく、日本の気候や先人の知恵を考える工夫、引き算の考え方がとても参考になりました。
  • 家で快適に過ごす方法を具体的な事例を踏まえて説明していただけて分かりやすかったです。また、自分の子供たちにも自然のエネルギーを利用することで快適に過ごせることを伝えていきたいと思いました。

第二部

  • 自宅でも参考にしたいと思います。参考になりました。
  • GAINAというもの、HEMSというものがどういうものかというのがよく分かりました。
ページの先頭に戻る