区民・事業者・練馬区等がともに地球温暖化防止をめざす

令和元年度 地球温暖化防止月間講演会 当日レポート

「地球温暖化のしくみと海の役割〜私たちができること〜」

日時:令和元年12月1日(日)10時~正午
会場:練馬区役所本庁舎アトリウム地下 多目的会議室
定員:100名(申込順)

概要

 令和元年12月の地球温暖化防止月間講演会「地球温暖化のしくみと海の役割~私たちができること~」を開催しました。当日は、北風の吹く寒い一日となりましたが、会場の入り口では、マスコットキャラクターのねりねこ☆彡・ねりこんvvが約70人の参加者を元気に出迎えました。

 講師の北海道大学名誉教授の池田元美氏は、海洋物理学が専門。講演では、地球環境を維持するために海が大きな役割を担っていることを学び、私たちができる対策について考えました。海はCO2と熱を吸収して温暖化を遅らせる一方で、大気と陸域を冷えにくくするという両面があり、その効用に頼るのではなく、CO2の排出量を減らさなければならないということを強調されました。動画を交えて小学生にも分かるように、やさしく解説していただきました。

 講演終了後には、参加者から「地球温暖化の問題は世界単位での解決が必要で、個人でできることは、たかが知れているかもしれないが、今日は考えるきっかけをもらいました」といった感想がありました。ある小学生からは、「このままではいけないと思った」という声も聞かれ、親子で地球温暖化について考えるきっかけになったと思います。

 会場の壁面には、独立行政法人海洋研究開発機構(以下、JAMSTEC)の資料から作成した「気候変動を予測して先手を打つ」「『海の“天気”予報』を社会に活かす」と題するパネルと「第9回こどもエコ・コンクール」入賞作品が展示され、多くの参加者が興味深く見入っていました。また、アンケートに答えていただいた方全員に、「COBハイパワースティック2WAYライト」をさしあげました。


講演会全体の様子

ねりねこ☆彡・ねりこんvvも
来場者をエスコート

パネル展示

こどもエコ・コンクール
入賞作品展示

参加記念品

主催者あいさつ


横倉 尚 会長

ねり☆エコ 横倉 尚 会長

 12月1日は、1997年に京都で地球温暖化防止のために多くの国が参加し、努力していこうという本格的な枠組となる「京都議定書」をスタートさせた記念すべき日です。これを記念して12月は地球温暖化防止月間となっています。

 折しも、明日(2019年12月2日)から、「COP25(第25回国連気候変動枠組条約締約国会議)」がスペインの首都マドリードで開かれます。京都議定書から20数年、次のステップとして21世紀末までに各国がどれだけ努力しなければならないのか、2020年からのパリ協定に基づく取組みの開始に向けた詰めを行います。

 地球温暖化防止のために世界は約束・目標を定めて努力はしていますが、残念ながら、地球温暖化のテンポを抑えるということは期待した通りになってはいません。ますます深刻な状況になっています。

 今回のテーマである海は、われわれの日常生活に大きな影響を与えています。しかしながら、海について勉強する機会はなかなかありませんでした。海がどういう形で地球温暖化に直面し、また影響しているのかということを、今日の池田先生のお話から学びたいと思います。

講演「地球温暖化のしくみと海の役割 〜私たちができること〜」


池田 元美 氏

講師:北海道大学名誉教授(工学博士) 池田 元美 氏

【プロフィール】海洋物理学の研究に携わり40年。主にコンピューターを使い、海流などの数値モデルを作成して、仕組みを明らかにする研究を続けてこられました。北海道大学大学院環境科学院教授、JAMSTEC特任上席研究員、東京大学大気海洋研究所客員教授などを歴任。

当日の資料はこちら(PDF)


資料1

 地球に住んでいる人間が、地球を温暖化させているということなので、テキストの冒頭に書きました「地球よ、温暖化させても私たちを住まわせてくれますか」ということについて、お子さんもいらっしゃるので、できるだけ分かりやすく話したいと思います。特に、地球温暖化に海がどのように関係しているのかということに焦点を当てて話したいと思います。(資料1)

1 地球温暖化はどのくらい進んでいるのか

<地球は暖かくなっている? どのくらい?>

【クイズ1】「地球温暖化」を聞いたことがありますか? 手を挙げてもらいましょう。

(会場から挙手)

 ほぼ100%、お子さんたちもちゃんと手を挙げていますね。


資料2

 大気中に含まれる炭酸ガス(二酸化炭素 CO2)の濃度についてグラフを見てください。Northern Hemisphere (NH)は北半球、surface air temperature(SAT)は表面大気温度、Anomaliesは変化、Trendは傾向です。(資料2)

 少し古いデータ(IPCC第3次評価報告書)ですが、2000年までの約300年間で徐々に増えてきて、特に最近の数十年でどんどん増えました。とはいえ、炭酸ガスの濃度は非常に低いのですけれども、影響は大きいです。100万分の360ですから、360ppm。1,000分の1よりも少ないですね。最新のデータでは、炭酸ガス濃度は400ppmを超えています。

 その下にあるグラフが、地球の北半球の平均気温です。

 1880年頃から、それ以前に比べ1℃くらい上がっています。ただよく見ると、CO2のようにずっと上がり続けているわけではありません。私が中学高校の頃、50年以上も前の話ですが、地球はこれから氷期、氷河期に向かうのではないかと言われていました。でも実際は、気温は上がったり下がったりもする。そして、全体として、気温は上がって来ているのです。


資料3

 モデルによる地球温暖化の将来の予測です。(資料3)

 地球温暖化が今後も進行すると2099年までに、100年間で、地球の気温は全体で平均3℃ほど上がります。濃い赤い色の部分が気温の上がり方の激しい地域ですが、南半球よりも北半球の方が、気温の上がり方が激しい。これは、地球の上にある雪や氷がとけてなくなる方に進んでいるからです。色の薄い辺りは海ですから、基本的に海の方が温暖化しにくいかなという感じがします。(A1Bとあるのは、IPCC第4次評価報告書のA1Bというシナリオで予測した結果を示しているということです。)

【クイズ2】モデルってなに?

 ファッションショーのモデルではなくて、ここではコンピュータ(計算機)でどうなるかを予測計算して表すための方程式のことをモデルといいます。皆さんがよく知っているものでは、天気予報でたくさん使われています。


資料4

 先ほどは気温の上がり方でしたが、雨の降り方も変わります。(資料4)

 地球温暖化の影響としては、気温よりも大きいと思います。大まかにいうと、熱帯のうち赤道から少し離れた所、亜熱帯と温帯の間の地域で雨が減ります。ここに日本も含まれます。一方、熱帯の赤道直下の所と寒い所は雨が多くなります。そうなると、農作物に被害がでて、食料生産にかかわってきます。例えば、今まで小麦等を作るのにちょうどいい雨量だったのが、雨量が足りなくなって育たなくなるといった影響がでてきますので、気温だけではなく、雨も非常に大事です。


資料5

 北極海の氷が減っているという図です。(資料5)

 左が1980年代、右がほぼ30年後です。白い所は、海面が氷におおわれている所です。水色のところで半分くらい、おおわれています。右の数字の単位は「%」です。北極海のまん中は氷がたくさんありますが、まん中から離れるほど氷は少なくなります。このような観測から、氷の割合がだんだん減ってきていることがはっきりわかっています。北極海の氷が減ると、シロクマは氷の上を歩いて行けないので、獲物がとれなくてやせ細ってしまっていることが報告されています。

<二酸化炭素が増えて気温が上がる どうして暖かくなるの?>

 では、どうしてCO2が増えると地球が温暖化するの?という話です。


資料6

 絵をみてください。太陽から地球に光が入り、地球を温めます。目に見えるのは波長の短い光です。一方で、地球から出ていくのは目に見える光ではなく波長の長い熱です。(資料6)

 そして、空気中にCO2があると、地球から出ていこうとする熱を吸収してしまうのです。では、なぜ吸収してしまうのでしょう?

【クイズ3】ストーブで暖かいなと、思った人は?

 (会場から挙手)

 皆さん、ほとんどですね。ストーブに手をかざさなくても暖かい。ストーブから出ている熱は赤外線です。そして地球(地表)から外に出ていく熱も赤外線です。


資料7

 赤外線は、人間が見える可視光線の赤色よりも、波長が長いことが特徴です。日焼けしてしまう紫外線は、短い波長です。(資料7)

 次に、CO2について見てみます。

 空気中には、何がたくさん入っているのでしょうか? 実は窒素(N2)が約8割を占めます。残りの2割のほとんどは酸素(O2)で、二酸化炭素(CO2、炭酸ガス)は非常に少ないです。


資料8

 標準大気のCO2は0.0314%です。最近の観測では0.04%、400ppmを少し超えたくらいですから酸素の1000分の2くらいですね。空気、気体というものは、目に見えない小さな粒がたくさん動き回っています。粒(分子)の形をみると、酸素分子(O2)は酸素原子(O)が2つ結びついています。対してCO2分子は、炭素原子(C)1つと酸素原子(O)2つから、合計3つの原子からできています。真ん中に炭素原子、その両脇に酸素原子が結びついていて、酸素とは形が全く違います。(資料8)


資料9

 ここを赤外線が通るとどうなるか、CO2分子の形を見てみましょう。(資料9)

 真ん中の炭素原子(C)と両側の酸素原子(O)はバネのようなものでつながっています。左右から赤外線が通った場合は、バネが横に引っ張られるのですがバネの力が強く振動が少ないですが、上下から通った場合はバネの力が弱く上下にゆれやすく、振動が大きくなります。

 このゆれ方は、それぞれの分子の構造によってことなります。窒素分子や酸素分子は、ゆっくりゆれる光が通ってもほとんどゆれませんが、CO2分子は、ゆっくりゆれる光が通ると大きくゆれます。


資料10

 光のゆれを、同じように波長のある音のゆれに例えてみます。(資料10)

 高い音(青い線)を波長の短い紫外線とすると、非常に早くゆれています。波長が長い赤外線は低い音(赤い線)のように、ゆっくりとゆれます。つまり、CO2の中を波長の短い紫外線や可視光線が通っても、CO2は大きくゆれませんが、波長の長い地表から出る赤外線が通るときにゆっくりとゆれることで、CO2がエネルギーをもらってしまい温められるのです。このため、CO2が増えると地球が温暖化するのです。

 なお、太陽から来る光(可視光線や紫外線)は波長が短いので、空気(窒素、酸素、CO2など)を温めずに通り抜け、雲などで宇宙へ反射しなかった光は、地球(地表)を温めます。

2 人間社会への影響は何か

<何が起きるのか、困ることは何?>

 次に、地球温暖化が人間社会にどういう影響を与えるか、いくつか例を挙げてみましょう。

 21世紀中には、

  • 気温が上がり、熱帯で流行している病気、熱帯風土病が、温帯(中緯度)にも拡がる可能性があります。
  • 雨の変化、そして高温のため土の中の水分が減ることにより、雨が減った所では今までできていた農作物が作れなくなる可能性があります。
  • 海面が今までに比べ、非常に大きく(50cmから1m)上昇する可能性があり、そうなると海岸の近くに被害が出ます。
  • 気温上昇に伴う異常気象については、今年(令和元年)の9月に台風がどんどん来たのも異常気象です。ただ、地球温暖化の影響なのか疑問視する声もあり、さらに研究を進める必要がありますが、今後、これまでに起きたことのないような甚大な被害が出る可能性があります。
  • これから発展する国は、地球温暖化に対応する社会ができていないため、大きな被害を受ける可能性があります。我々は、日本のことだけでなく、他の国のことも考えなければなりません。

【クイズ4】熱帯(あついところ)で流行る病気は何がありますか?

 一番よく出てくるのは蚊に刺されることによってうつるマラリアです。マラリアは死亡するリスクが高い病気です。アフリカや南アメリカなどで多い病気です。私も南アフリカやインドネシアに行くとき、蚊に刺されないよう注意してくださいと言われました。

 後記のJAMSTECのホームページにも研究例が紹介されていますが、東アフリカにおけるマラリアの発生のデータをみると、ラニーニャ(エルニーニョの逆)現象が発生しているときに雨が多くなる傾向があり、雨が多いときはマラリアも流行することが多いようです。温暖化などにより雨が増加すると、マラリアによって死亡するリスクが高まります。このように気候変動の問題は、その地域の人にとって大きくかかわってきます。

3 地球温暖化のしくみ、そして海と陸の役割は何か

 次のアメリカ国立雪氷データセンター(NSIDC)のグラフのうち、上は最近50年の海面上昇です。単位はmmですから約10cmの上昇です。


資料11

 下は、海面上昇のうち海の温度が上がったことによる水の膨張の影響を表しています。赤がAntonov氏、青がIshii氏のモデルによる値です。海面上昇の主な原因は、水の膨張ではなく、氷河がとけたことによるものです。(資料11)

 最近は南極大陸の氷がとけているといいます。南極大陸の氷が全部とけた場合、海面は30mから40m上がります。厚い氷でおおわれているグリーンランドが全部とけただけでも、5mほど海面上昇すると言われていますので、南極大陸の氷がたくさんとけたら、これまでの海面上昇とは比べものにならないほど大変なことになります。どのくらいとけるのか、注意して見て行かないといけません。

<植物と海が二酸化炭素をとりこむ>

 CO2についてです。

【クイズ5】人間のはく息(いき)にはどのくらいの二酸化炭素が含まれているか? 石油と石炭をもやして出る二酸化炭素より多いか少ないか? 人間(そして動物)は、なぜ二酸化炭素を出すのか?

 陸の植物がCO2を吸収します。CO2を抑えるために森林を増やすことも、地球温暖化の対策にありますね。同様に、海もCO2を取り込んでいます。人間は、酸素を吸ってCO2を出します。石油・石炭を燃やしてもCO2が出ます。それぞれの量はどれくらいなのでしょうか?人間が出す量は、石油・石炭に比べればかなり少ないです。


資料12

 地球上の炭素存在量と循環(年あたり)を表した図です。(資料12)

 大まかな図ですが、人為起源の(人間の様々な活動によりできた)CO2の放出量は、全体で80億トンです。世界の人口が80億人ですから、炭素に換算すると一人当たり年間1トンで、そのほとんどが石油・石炭に由来します。日本に住む人は世界平均の約3倍、北米の人は世界平均の約6倍、人によってちがいますが全体としては住んでいるところによって、どのように石油・石炭を使うかがちがっています。ドライアイス(CO2が冷えて固体になったもの)にすると年間11トン、1日当たりにすると30kgです。CO2は炭素Cに比べると約3.7倍の重さがあります。それが大気中へ出ていきます。

 人間は食べ物を食べて、体の中で食べ物の中の炭素Cと呼吸で取り込んだ酸素O2がくっついてCO2ができます。その時にエネルギーが出ます。人間が呼吸で出すCO2は、1日当たり1kgで、石油・石炭から出るものに比べたら非常に少ない。さらにこのCO2は元々食べ物(植物)から得たものです。植物は大気中のCO2を吸収して育ち、その植物を動物が食べて大気にCO2を出しても、そのCO2を吸って育った植物を食べ物にするので、大まかに言えば炭素がぐるぐる回っているだけで、大気の中のCO2を増やしていることにはならないのです。

 大気中の炭素は8,300億トンで、人間が1年間に出す炭素の100倍あります。海の中は40兆トンで、大気中の50倍あります。森林の炭素は6,000億トンで、大気と同じくらいです。

 CO2は地球を循環しているのですが、CO2をもっとも吸収しているのは海と森林です。すなわち、人間が出すCO2の一部は、海と森林が吸収してくれているということです。その量は40億トンで、人為起源の炭素の半分は吸収されていることになります。

 森林と同様、海もCO2を吸収しています。海水そのものが吸収するだけでなく、植物プランクトンもCO2を吸収します。プランクトンは目に見えるほどの大きさではありませんが、湖で少し緑っぽいところはプランクトンが多いところです。人間が80億トンのCO2を出して、半分の40億トンは森林や海が吸収してくれています。とはいえ、全面的に森林や海に頼ることはできません。やはり石油・石炭から出るCO2の量を減らさなくてはいけない、というのが基本になると思います。

<海の役割は何か>

 海の役割について話していきたいと思います。

 海の役割は、人間の出すCO2を吸収することと、もうひとつ、熱を吸収します。実際、海水の温度が上がってきています。海面は観測しやすいですが、どれくらい暖かい水が潜りこんでいるかということを、深い所で観測することは、かなり難しいです。

 海水、特に深い所にある水が暖かくなってしまうと、今度は冷えるのが大変です。海が熱を吸収することで温暖化を遅らせていることは確かなのですが、その一方で大気と陸域を冷えにくくします。どちらも変化をゆっくりにするということです。

 海の植物プランクトンがCO2を吸収すると、海水中に含まれるCO2が増加します。そうなると酸性化が進みます。皆さんは、pH(ペーハー、ピーエイチ、水素イオン濃度)という単位を聞いたことがあると思います。水中の酸とアルカリの度合いです。pH7が中性とされていますが、海水は弱アルカリ性(海面で8、水深1,000mで7.5くらい)で、近年、ほんの少し、なめて酸っぱいほどではありませんが酸性化しています。

 酸性化が進むと、海に住む貝殻(炭酸カルシュームCaCO3)を作るような生物が、貝殻を作ることが難しくなり成長できなくなってしまいます。全部の生物が影響を受けるわけではありませんが、CO2が海にたくさん吸収され、酸性化が進むと生物によっては絶滅の危機になるということが言えます。

 温暖化で気温が上昇して、南極などの氷床や高山・極地の氷河がとけることによる海面上昇に加え、海水が暖かくなるとふくらみます。これを熱膨張といいますが、海面を上昇させ、海の沿岸地域の生活環境を破壊します。

 海面の温度が変わると、気候パターンが変わることもあります。海面の温度が上がることで起こる典型的な例としては、台風があります。海面の水温が上がった所では、台風ができやすいというのは確かです。今年(2019年)9月から台風がたくさん発生したのは、太平洋西部の海面水温が上昇したためとも言われています。

4 海のしくみに注目し、将来の変化を調べる方法について

 海を研究する者としては、海の変化をまず調べて、これからどうなるか?ということを知り、皆さんの役に立ちたいと思っています。そのために観測(海に行っていろいろ測ること)と、計算機のモデル作成に取り組んでいます。


資料13

 その一つの例として、黒潮の観測と計算機モデルがあります。黒潮は、皆さんよく知っていると思います。黒潮大蛇行の図です。(資料13)

 これは、今年(2019年)10月31日の観測の結果と計算機モデルの計算結果の両方を合わせた、典型的な現象として、黒潮の大蛇行(へびが行くように)、比較的冷たい水が現れる様子を表したものです。今年は、比較的長く、一年近く黒潮の蛇行が続いています。どんな魚がとれるのかなどが変わってきています。

 黒潮とは、北太平洋西岸を流れる海流です。ほぼ同じパターンで、大西洋の方にもメキシコ湾流という海流があります。地球上で2つ並ぶ強い海流です。流速は毎秒1m程度。毎秒1mというのは人が歩くくらいの速さです。幅は100kmほどで水の流れる量がすごく多いです。北側の親潮と接するところが、暖かい海水と冷たい海水の境目になります。

 先ほどの図でいいますと、黒潮は蛇行していますが、南側は暖かく、北側は冷たい。だいたい10℃くらいの差があり、東の方に流れています。魚も寒い所が好きな魚と、暖かい所が好きな魚、あるいは境目で発生するプランクトンを食べるのが好きな魚がいます。黒潮の流れる場所がどこかということは、そうした魚類にとっては住む所を決めるのに重要です。

 また、大気と海洋の熱交換、つまり海が暖かければ、海から大気に熱が放出される。海が冷たければ、大気が海を暖める。そういう熱の交換に黒潮の位置は非常に大きな影響を与えます。

 黒潮は、気象庁、水産庁(どういう魚がどこに、どのくらいいるなど)、JAMSTEC(海洋開発機構、海洋のいろいろな面の研究を担当している)などが観測、計算機モデルによって調査・研究を進めています。


資料14

 黒潮流軸の観測グラフです。(資料14)

 これは、黒潮の様子を表したものです。1993年から2007年まで一年ごとの黒潮のパターンをJAMSTECが描きました。2週間ごとに人工衛星で海面の温度も高さも測り描いています。

 もじゃもじゃしているのは、黒潮の場所が蛇行しながら時間と共に変わるからです。2000年は、日本の南で黒潮が大蛇行している期間が長い。それに比べ2002年はまっすぐ流れている。このような違いがあるということがわかります。


資料15

 黒潮流軸の2層モデルのグラフです。(資料15)

 グラフにあるのは、日本の東、太平洋の全体では西の黒潮がどうなっているかというものです。これは私が作った計算機のモデルによるものです。

 ある時に、1か月間、海流がどこを流れているかというのは、人工衛星での観測でもわかります。黒潮を上の方の軽い水(上層)と、下の方の深いところの水(下層)の2つに分けて、それぞれが流れていく様子を示したものです。時間と共に黒潮の流れるパターンは変わりますが、上の層と下の層は一体となって、相互に影響を与えながら流れが変化していくというのを計算機のモデルの中で確認しました。こちらはJAMSTECではなく、大学が持っているあまり大きくない計算機で行いました。

 JAMSTECのモデルを見てみましょう。

 JAMSTECには、大きな計算機があり、もっと広い海域をモデルに、海洋を多くの層に分け(私の場合は上下の層しかない)、水平位置も細かく分けています。観測結果に、(風成海洋循環※などの基本的なものだけでなく)様々な要素が理論的に組み込まれて計算しています。

※風成海洋循環(ふうせいかいようじゅんかん):偏西風や貿易風などによる海流。下向きの流れも発生させます。

 今日は海面の流れが、日々どう変化するのか、観測結果から2か月先までモデル計算で予測した結果を、JAMSTECのホームページにのっている動画で見てみましょう。

(JAMSTEC黒潮のモデルの動画を上映)

 こうした情報は主に水産関係の方たちが活用しています。黒潮が流れている位置から、魚の種類や住んでいる場所を推測できるのです。

 「地球流体力学」についてです。

 これは、予測モデルの計算の根拠となっている物理の法則、地球流体力学を理解するために参考になると思います。地球の上の海水の流れにどういう力が働くのか、こういう決まり(原理)があることを室内実験でも見ることができます。ここで大事なのは、地球は回転しているということです。もしも地球が止まったらどう流れるか、これも見てみることができるのは室内実験のよさです。


資料16

 「コリオリの力」これは耳慣れない言葉だと思います。コリオリの力:フランスのコリオリが発見しました。この力があることをこれから実験で確認したいと思います。(資料16)

 この図は、(日本のある)北半球の場合です。北半球の場合は、地球は左回りです。

 例えば、青い線のような向きの海流があるとします。海流は風の影響(風成海洋循環など)もあり、一定の方向に流れようとしますが、そこに地球の回転が加わると、地球上にのっかっていっしょに回っている人から見ると、海流は右に曲がってしまいます。

 それを止めるには、海流に対して垂直の向き(赤い線の向き)に力を加える必要があります。そうしないと、実際の海流のように一定の向きに流れません。これが地球の上では実際にそういう力が働いています。コリオリの力です。南半球では逆向きに働きます。実験で確認しましよう。

(地球流体力学の室内実験のビデオを上映)

*実験は、レコード盤の上に、地球に見立てた水槽をのせ、左右どちらに回っているのかが分かるように、海底地形にみたてたハート型の台を置いてあります。レコード盤が止まっているときと回転しているときに、それぞれ赤インクを水槽に落とし、赤インクの流れを可視化させ、両者の流れにどのような違いが生じるかを観察しました。停止中は、インクがもやもやと全体に広がっていくのに対して、回転中は、(遠心力だけでなく)コリオリの力が働き、広がらずに、海底地形がわりのハート型の上に柱状にまとまったような一定の流れになっています。最後に回転を止めると、急に広がっていきました。明らかな違いに、会場から驚きの声があがっていました。(実験写真1~11)


写真1〈停止中〉

写真2〈停止中〉

写真3〈停止中〉

写真4〈回転中〉

写真5〈回転中〉

写真6〈回転中〉

写真7〈回転中〉

写真8〈回転中〉

写真9〈回転中〉

写真10〈回転停止〉

写真11〈回転停止〉

5 人間にできることは何か

<二酸化炭素を増やさないでいきられるか>

 今日のお話の最後です。CO2を増やさないことは可能なのでしょうか?

 太陽光発電や風力発電は、工事するときに石炭・石油は必要ですが、発電するときには使いません。ただ、これですべての電力をまかなうのは大変です。

 CO2を固体にして地下や深海に貯める研究もされていますが、深海に貯めることについてはさまざまな議論があります。

 今日の話をまとめますと、

  • 地球環境は破壊されつつある
  • CO2は地球温暖化を進め、海面を上昇させて、熱帯性風土病、降水の変化をもたらすこと、そして異常気象についてはクエスチョンマークをつけ、どれくらい影響があるのかは、慎重に見なければならない
  • CO2は今後70年で2倍に増える、今世紀中に氷期・間氷期の変動では起きなかった温暖な地球になってしまう
  • その時、海は、CO2と熱を吸収しているが、将来も同じようにいくかどうか?
    CO2をただ海が吸収すればいいという話ではないことを話しました。将来のことは、慎重に見ていかなければなりません。CO2の排出をゼロにするしかないのです。
  • CO2の排出を減らすためにはどうしたらいいか?
    そういうことを考え、研究し、実践することだと思います。
    一方で、人々の中には温暖化しているといっても、それは自然の流れだという意見など、地球温暖化予測に対する種々の疑問や反対意見もあります。そういうときにどうすればいいのか。
  • 科学に基づいた説明が大切です。
    これは研究者の意見と思われてしまうかもしれませんが、温暖化の重大性と緊急性について、科学に基づいた説明ができなければならないというのが、私の基本の考えにあります。専門ではない人たちにも理解できるように、「ああ、そうなのか」と思ってもらえる説明をしないといけない、と思います。

 私から皆さんへの最後の質問です。皆さんは、地球温暖化を止めるために、何ができますか?

 やはり、いろいろ話してみること、言語化してみることが大事だと思います。

 ぜひご家族で議論してみてください。子どもの皆さんは、大人になるまでに、これからよく考えてほしいなと思います。

質疑応答

 参加者から寄せられた質問にお答えいただきました。

Q:最近のひどい災害の状況は、海水温のせいなのでしょうか。

A:海水温が28℃以上だと台風ができやすいというのは、ほぼ確実だと思います。今年(2019年)の9月に多くの台風が来ましたが、日本の少し南の海水温が高くなった影響だというのは、確かだと思います。

Q:一人ひとりが何をすれば良いか?

A:やはりCO2の排出を少なくすることが大事だと思います。

Q:昨今の大型台風で温暖化の脅威を感じています。地震、台風などの災害が起きにくい安全な地などがあるのでしょうか?もしありましたら教えていただけますでしょうか?

A:例えば、いままで北海道なら台風は来ませんでしたが、今後、暖かい海水が北の方に拡がれば、北海道にも台風が来るようになると思います。ですから、安全な所というのは、なかなか難しいですね。

Q:地球の温度は昔からどんどん上がっているのですか?石油がなかったら上がらないのですか?

A:地球には氷期と間氷期があり、だいたい10万年単位で繰り返しています。そういう意味では、「どんどん上がっている」というよりも、ある一定の周期で変わっています。今は間氷期で地球が暖かくなっている中で、わずか200年という非常に短い期間に、さらに気温が上がっているということです。自然の変化にCO2による急激な地球温暖化が加わっています。

Q:新聞や雑誌で、温暖化で北極と南極の氷が少なくなっている、とありますが、数字的に何かわかりやすいものがありますか?

A:北極については氷の厚さや温度、面積が割と正確に出ています。大まかにどれくらいかといいますと、半分とまではいいませんが、減っているといいます。南極は氷の厚さの観測が難しく、氷の全体量の把握も難しくなっています。最近の観測で、南極も氷がとけているということで、かなりはっきりした量が出るようになっています。

Q:温暖化対策が必要ないという意見がある。それに対して防御策、生き延びるための策をどうしたらいいのか?

A:実証と理論に基づいたことで言えば、氷期と間氷期があって、今は間氷期の中でも、CO2の増え方と地球全体の平均気温の上がり方に関連があります。その先にあることはモデルですが、モデルの場合も要するに、氷期、間氷期の変動も説明できないといけないし、今後のことはデータがないといけない。つまり、理論上も、実際の数値としても説明できるためには、これまで起きた氷期、間氷期の変動、それもちゃんと説明できなければいけない。それに基づいて将来のこと、こうなるだろうという説明するために、我々は力を入れなければなりません。

Q:先生のご研究の中で、温暖化に対しての対応、研究成果はどんなことが挙げられるのでしょうか。

A:対応そのものに関しては、先ほどのJAMSTECのような詳細にわたるものではなくて、基本的に、人間が出すCO2の量あるいは変動と、それを地球がどういう風に受け止めるのか、変化しているのか。そこには当然、海も陸も、植物が重要な役割を果たしている。そのへんを関係づけた簡略モデルをやってみたことはあります。その場合は、人間社会がどれくらい温暖化すると、これくらいCO2を減らすように努力しようという、その割合というか、対応の仕方、人間社会の対応がカギになる。そういうような結果は出ました。簡略な計算モデルですけれども、やってきました。

 今日の話と別にプラスチックの話をしてもいいですか? ということで、こんな質問もありました。

Q:最近は、深海の底までプラスチック、マイクロプラスチックがあり、海岸にはプラスチック製品が漂着している。これを再利用したらどうですか?

A:その際、気がかりなのは、プラスチックの製造量や廃棄量、再利用された量は各国にデータがありますが、海や川に流れてしまったものの量はデータがありません。どうしたらよいかを考える前に、まず、今すてられているプラスチックが、陸や海のどこにあるのか分かっていないことが問題である、と思います。

 ご参加いただいた皆さま、池田講師、ご協力いただいた多くの関係各位に改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。

当日の資料はこちら(PDF)

当日のJAMSTECの展示内容はこちら(PDF)

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