平成30年度 地球温暖化防止月間講演会 当日レポート
「環境にやさしい発電 実験してみよう!燃料電池ってなんだろう?」当日レポート
期日:平成30年12月2日(日)
時間:10時~正午
場所:練馬区役所本庁舎アトリウム地下多目的会議室
概要
講演会全体の様子
ねりねこ☆彡・ねりこんvvも
来場者をエスコート
今年の地球温暖化防止月間講演会のテーマは、地球温暖化と燃料電池です。「環境にやさしい発電 実験してみよう!燃料電池ってなんだろう?」と題して、エネルギーや環境についての出張授業を数多く行っている東京ガス(株)学校教育情報センターより2人の講師を招き、スライドや実験、質疑応答をふんだんに交えた“ライブ感のある”授業をしていただきました。
対象は、練馬区在住の小中学生とその保護者で、参加費は無料。当日は51組120人(小中学生65人、保護者55人)の方で満席になり、テーマへの関心の高さがうかがえました。
「実験がしたくて参加した」(中学生)という声も聞かれたように、講演会の目玉は燃料電池の実験。1組に1つの実験キットが用意され、燃料電池に水素を注入して電気を作り、プロペラを動かしたり、オルゴールを鳴らしたり、その都度、歓声が上がっていました。
講演会の終了後は、「燃料電池の実験が楽しかった」「話がとてもわかりやすかった」という子どもたちの感想が寄せられました。また、保護者からは「これから地球温暖化のためにできることをしなければ」「エネファームがほしい」といった声も相次ぎました。
会場の入口近くでは、平成30年度「こどもエコ・コンクール」の入賞作品のパネル展示も実施。休憩時間や終了後にも、親子で鑑賞する姿が多く見受けられました。
参加記念品として、こどもエコ・コンクールの最優秀作品が描かれたマウスパッドを配布し、アンケートの回答者にはLEDライトを進呈しました。
主催者あいさつ
横倉 尚 会長
ねり☆エコ 横倉尚会長の挨拶
12月に入り、だいぶ寒くなってきましたが、今年の夏は39.6℃という、練馬区では過去最高気温を記録しました。私の子どもの頃の12月はもっと寒くて、毎日震えながら学校に行ったものですが、その頃に比べると、かなり暖かくなっているのではないでしょうか。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告によりますと、今からおよそ200年前、産業革命以前の平均気温と比べると、既に1℃上昇しているといいます。目標は2100年までに産業革命以前と比較して2℃未満の上昇にしよう、できれば1.5℃に抑えたいということです。既に1℃上昇しているので、許される上昇幅は0.5〜1℃です。0.5〜1℃というと、大したことはないように思うかもしれませんが、地球全体の年平均気温が1℃上昇するということは、相当大きい影響があります。氷河期と今の気温を比べると、せいぜい4〜5℃しか変わりません。つまり、年平均1℃の気温変化というのはとても大きく、何が心配かというと、地球温暖化が私たちの想像以上に進んでいるということなのです。
今日のお話の燃料電池は、聞いたことがある人も少なくないと思いますが、地球温暖化の防止に役立つ新しい発電方法として、私たちの身の回りでも使われ始めていることがご理解いただけると思います。
講師は、ねり☆エコの会員として活動にも寄与していただいている、東京ガスの方です。今日は実験もあります。自分の手を動かせば、話を聞くだけよりも記憶に残りやすいと思います。実験しながら、地球温暖化や燃料電池についての理解を深めていただければ幸いです。
講演「環境にやさしい発電 実験してみよう!燃料電池ってなんだろう?」
市川 真理 氏
和田 厚巳 氏
講師:東京ガス株式会社 学校教育情報センター 市川 真理 氏、和田 厚巳 氏
練馬区内外の多くの学校で、地球温暖化対策として期待されている燃料電池について、実験を通じわかりやすく解説する授業など、普及啓発活動に取り組んでいる。
市川:お話を担当する市川と申します。どうぞよろしくお願いします。
和田:実験を担当する和田と申します。どうぞよろしくお願いします。
市川:前半は地球温暖化についてのお話を中心に、後半は燃料電池のお話や実験を中心に、楽しく過ごしていきたいと思います。実験には何人かのおともだちにお手伝いしていただきますので、「やりたい!」というおともだちは手を挙げてください。
最初に、家の中のエネルギーを探してみたいと思います。ガスは、どこで使われていますか?
「コンロ!」
「お風呂!」
台所のガスコンロは、お料理する時に使います。お風呂やシャワーのお湯などでも使っています。暖房、ファンヒーターでも使っています。電気はどうでしょうか。
「パソコン!」
「テレビ!」
「冷蔵庫!」
「掃除機!」
照明やエアコンなどにも使われています。石油はどうでしょうか。
「暖房!」
「ストーブ!」
絵を見てください。車でも使われています。
私たちはエネルギーをたくさん使って、便利で豊かな生活をしています。こうしたエネルギーがなくなってしまったら、困ります。
いま、家の中で使うエネルギーを探してもらいましたが、最も多く使われるエネルギーは何でしょうか? これは家で使うエネルギーを示したグラフになります。いちばん多いのが電気、次がガス、その次が石油の順になります。
電気はどんな仕組みで作られているのでしょうか?ここからは火力発電の仕組みを動画で見てもらいます。
(動画で、乾電池や磁石とコイルを使った発電の仕組みから火力発電の仕組みまで基本を解説)
実験1
電気の約85%は火力発電所で作られています。ボイラーで蒸気を作り、羽根車のようなタービンを回し、発電機を動かして電気を作っています。
ここで羽根車を回して、電気がつくのかどうか、実験をしたいと思います。
和田:動画で火力発電所の仕組みを見てもらいましたが、ここでは手回し発電の実験をします。私たちの体がボイラー、ハンドルが羽根車の役目になり、おもちゃの恐竜を手回しの発電でゴールまで動かしてみたいと思います。(実験1)
市川:ボイラーで蒸気を作るにはどうしたらいいでしょうか。燃料を燃やして蒸気を作っています。燃料には、天然ガスや石油、石炭があります。これらは化石燃料と言います。燃料を燃やすと何が出るしょうか?
「二酸化炭素!」
二酸化炭素が出ると、地球はどうなるでしょうか?
「暑くなる!」
地球の温度が高くなります。それを地球温暖化といいます。二酸化炭素は、地球温暖化の原因になっています。ここで、また実験をしたいと思います。
実験2
和田:二酸化炭素が増えると本当に暑くなるのか? 比べるために、実験用の地球儀を2つ用意しました。左は現在の地球、右は二酸化炭素が増えてしまった未来の地球。真ん中に太陽があります。(実験2)
(現在の地球と未来の地球の温度を計測。続いて未来の地球だけに二酸化炭素を注入し、時間の経過と共に変化する温度をワークシートに記入していき、比較しました。最終的には、未来の地球の方が1.0℃高くなりました。)
市川:地球温暖化とは、地球の温度が高くなることですが、「地球温暖化」はどうして起こるのでしょうか?
太陽の熱が地球に入り、地面に届きます。そして、必要な分だけが地球に残り、使われなかったものは宇宙に出ていくことで、地球は適温になっています。
地球のまわりは二酸化炭素に覆われていて、これを「温室効果ガス」といいます。私たちが生活できる温度に保たれているので、二酸化炭素は“布団”のような役割をしていると思ってください。
私たちが電気をたくさん使って、自動車も使って、便利な生活をして、二酸化炭素が増えるとどうなるのでしょうか?
布団の役割をしている二酸化炭素がたくさん出ると、布団が厚くなってしまいます。すると、熱が宇宙に逃げ出せなくなり、地球の温度が高くなり過ぎてしまうのです。
ここで、100年前と今の生活を比べてみましょう。昔は、銭湯に行ってお風呂に入っていましたが、今は家にお風呂やシャワーがあります。ここで使うエネルギーはガスです。
昔は暑い夏にうちわを使っていましたが、今はエアコンや扇風機を使い、涼しい生活を送っています。ここでは電気が使われています。
皆さんは人力車を見たことがありますか? 昔は人力車で人を運んでいました。今は自動車です。ここで使われているのはガソリン、つまり石油です。
このように昔と今では、生活がずいぶん変わっています。私たちは便利な暮らしを送っていますが、一方では地球温暖化の原因の二酸化炭素が増えています。
ここからは、地球温暖化によってどんなことが起きているのか、写真を見てみましょう。
ホッキョクグマがやせ細っているのは、氷が溶けてなくなり、アザラシを捕まえることができなくなったからです。地球温暖化は生き物にも影響しています。
ヒマラヤの氷河、1978年と
その20年後
ヒマラヤの氷河は、この20年間で面積が小さくなっていることがわかります。
氷河が溶けると海水が増え、水面が上がります。南太平洋の島が沈んでしまうのではないか、低い土地が浸水してしまうのではないか、と言われています。
熱中症による死亡者数グラフ
グラフは、熱中症で亡くなった人数を表しています。右肩上がりです。横倉会長のご挨拶にもありましたように、練馬区では39.6℃という記録的に暑い日が続きました。天気予報では、熱中症予防のための情報が毎日のように流れ、皆さんは学校に水筒を持って行ったことと思います。人間の健康にも、地球温暖化が影響を及ぼしています。
ワークシート2「地球温暖化のしくみとその影響」に記入してください。地球温暖化とは、何が増えることをいうのでしょうか?
「二酸化炭素!」
地球温暖化によってどんなことが起きているのでしょうか? ①南極・北極や、陸の氷が減る ②ホッキョクグマなどの生き物が減る ③低い土地が水に沈む ④病気が起きる—こんなことが起きています。
自然の力を利用する発電方法があります。例えば水力発電、風力発電、太陽光発電。このほかにも知っていますか?
「地熱発電!」
地熱発電やバイオマス、波の力を利用する方法もあります。こうした発電は、自然の力を利用するので二酸化炭素が出ません。使ってもなくならず、何回でも使うことができます。
実験3
和田:次に、風力発電と太陽光発電の実験をしましょう。(実験3)
(風力発電は、うちわで風を起こし風ぐるまのついた発電機を回し、オルゴールを鳴らす。太陽光発電は、太陽に見立てた電球とソーラーパネルの間に雲や夜に見立てた遮るシートをはさむと、発電ができなくなって電球が消えるという実験をしました。)
ワークシート3「自然エネルギーについて考えよう」に記入しましょう。自然エネルギーの良いところは、①二酸化炭素をださない ②使ってもなくならない—ですね。困るところは、天気に影響されることです。天気が悪かったり、太陽が出ていなかったりすると発電できません。
自然エネルギー以外で天気に影響されずに、環境にやさしい電気を作ることはできないでしょうか。それが燃料電池です。燃料電池の歴史についての動画をご覧ください。
(動画で、燃料電池の発明から宇宙船での利用まで、その歴史を説明)
実験4
燃料電池の原理は200年前に発見されましたが、当時は蒸気や石炭の利用が進み、実用化されませんでした。実用化されたのは1960年代に入ってから、宇宙船の中で使う機器の電源として、燃料電池が利用されました。燃料電池は水が出るので、宇宙飛行士の人たちは、その水を飲んだそうです。
燃料電池の仕組みについて、実験の前にお話します。皆さん、水素を知っていますか? 机の前に置いてある缶に水素が入っています。燃料電池は、この水素と空気中の酸素を使って発電します。水素と酸素が燃料電池の中に入ると電気ができます。その時、一緒に熱が発生します。水素と酸素が組み合わさると水ができます。燃料電池は水素と酸素で、電気と熱を作ります。ここを覚えておいてください。
実際に、皆さんの前に置いてある燃料電池で実験をしてみたいと思います。
和田:机にある実験キットの中身を全部出してください。(実験4)
(燃料電池に水素を入れて、①LEDランプをつける ②オルゴールを鳴らす ③プロペラを回す実験をしました。)
市川:私たちの生活の中で、もうすでに燃料電池は使われています。これから2つを紹介したいと思います。
1つ目は、東京ガスで開発した家庭用の燃料電池「エネファーム」です。この燃料電池が発電するときに必要な水素は都市ガスから取り出して使い、酸素は空気中の酸素を使います。水素と酸素が結びつくと、電気と熱ができるという話をしました。電気はお家の照明や電気製品などに使い、熱はお風呂やシャワーのお湯などに使います。
これによって、二酸化炭素が出る量を減らすことができます。どれくらいかというと、だいたい半分くらいと言われています。
もう1つ良いことがあります。火力発電所で作った時のエネルギーを100とします。発電する時に熱が出ますが、残念ながらそれは利用されていません。送電ロスもあります。使えないエネルギーが63あるので、お家で電気として使えるエネルギーは37です。最初は100だったエネルギーが、お家で使う時には37に減ってしまいます。では、お家で発電するときはどうでしょうか? 今回は都市ガスで水素を取り出した場合です。
都市ガスのエネルギーを最初100とします。皆さんの家まで100の状態で届きますが、使えないエネルギーが14あるので、電気や熱として使えるエネルギーは86です。
比べてみると、家で発電した方が使えるエネルギーが多いことがわかります。家で発電するとエネルギーを無駄なく使えるということです。
世界初の家庭用燃料電池は、2005年に内閣総理大臣が住む首相公邸に取り付けられました。政府は、2030年までに530万台の家庭用燃料電池を全国に設置することを目指しています。
燃料電池のもう1つの使い方を紹介します。「燃料電池自動車」を見たことがありますか? 乗ったことがありますか? これは“究極のエコカー”と言われていて、水素を積んで発電しながらモーターを動かして走ります。ガソリン車は二酸化炭素が出ますが、燃料電池自動車は何が出るのでしょうか?
「水!」
水素を車に入れるために「水素ステーション」が設置されていて、練馬区の谷原にもあります。練馬区役所でも2台の燃料電池自動車が使われています。
私も燃料電池自動車に乗ったことがありますが、ガソリン車に比べると音が静かで、特に発進するときが静かなのですが、パワーを感じました。
乗ってみたい!という人には、都営バスをおすすめします。東京駅丸の内南口から東京ビッグサイトまでの経路です。1日に何本か燃料電池バスが走っています。
ワークシートのまとめに入ります。燃料電池で作るものは、何と何でしょうか?
「電気と熱!」
そして水ができます。燃料電池で電気を作るには、何が必要でしょうか?
「水素と酸素!」
水素と酸素で電気を作ります。お家で使う燃料電池の水素は何から作るのでしょうか?
「都市ガス!」
東京ガスでは、地球にやさしい発電方法として家庭用燃料電池を開発しました。前半で、地球温暖化の話をしましたが、実験で見たように温度が1℃上がってしまいました。1℃上がると、北極や南極の氷が溶けたり、ホッキョクグマがやせ細ったり、いろいろ影響が出ているという話をしました。たった1℃の変化で、大きな影響が出ているのです。
私たちの大切な地球。エネルギーを上手に使う方法を、私たちの一人ひとりが考えていかなければいけないと思います。今日はお家の人と、どんなことができるのかお話ししてみてください。
質疑応答
Q:飛行機は燃料電池で飛ぶことができますか?
A:2016年にドイツ国立航空宇宙研究センターで開発された飛行機は、燃料電池と水素を積んで、最長1,500kmを飛べるそうです。ですから、「飛ぶことができます」という答えになります。このほか、燃料電池バスやバイクはすでに使われていて、船や大型トラックは現在開発中です。
Q:燃料電池は電池が熱くなったりしますか?
A:燃料電池は、熱と電気と水ができます。今日の実験で使った燃料電池は小さいので熱を感じることはできませんでしたが、大きいものは熱くなります。「エネファーム」は、その熱でお湯ができるという話をしました。ですから、燃料電池は熱くなります。
Q:備長炭の炭電池で携帯電話の充電はできますか?燃料電池でも携帯電話の充電はできますか?
A:これは、私も分からなかったので調べました。炭電池は、備長炭を食塩水に濡らして、アルミホイルに包むと発電できるというものです。備長炭1本で、今回の実験で使ったオルゴールを鳴らすことができるようです。備長炭1本で考えた場合、電圧が小さいので、携帯電話の充電はできません。
次に、燃料電池で携帯電話の充電はできますか?という質問ですが、これも調べてみました。今回の実験で使った燃料電池ではできませんが、携帯電話充電用の燃料電池はお店で売られていて、だいたい1万円くらいです。主に非常用電源として使うためのもので、14〜15日間充電できるそうです。
Q:燃料電池は何に使うのですか?
A:ご紹介しましたように、温暖化対策として、東京ガスの「エネファーム」をはじめ、自動車やバスなどいろいろな所で使われています。また、これからいろいろ開発されてくると思います。
Q:家庭用の燃料電池エネファームで作られたけれど、余ってしまった電気はどこにいくのですか?
A:もし電気が余った場合は、お湯を作るのに利用します。エネファームは、それぞれのご家庭の電気やお湯を使う時間帯を学習して運転する機能があるので、極力、電気は余らせないようにしています。
Q:燃料電池の寿命は?
A:最新の家庭用燃料電池エネファームは、発電耐久時間が9万時間(一般的なご利用で12年相当)です。
市川、和田両講師をはじめ、ご参加された皆さま、関係各位に改めて御礼申し上げます。どうもありがとうございました。