区民・事業者・練馬区等がともに地球温暖化防止をめざす

平成28年度 地球温暖化防止月間講演会 当日レポート

恐竜とわたしたち~恐竜博士が化石から読み解く 恐竜の生態と地球環境~

期日:平成28年12月11日(日)
時間:展示 午前9時30分~午後12時30分/講演会 午前10時~正午
場所:練馬区職員研修所2階(練馬区豊玉北5-27-2)

概要

 国立科学博物館 標本資料センター長の真鍋 真(まなべ まこと)博士を講師としてお迎えし、恐竜の基本の「き」から最先端恐竜学まで学べる講演会を開催しました。

 対象は、練馬区在住、在学の小学4年生から中学生とその保護者で、参加費は無料。当日は、49組100名の方にご参加いただき満席となりました。開場の9時30分には1階の階段前に長蛇の列。受付では資料の入った封筒を配布。記念品として大人に室温チェッカーを、子どもに恐竜の下敷き、定規のいずれかを抽選でプレゼントしました。

また、講演の他に化石の展示や真鍋先生監修の書籍の閲覧なども行いました。

 講演会は、申し込み時に真鍋先生への質問を事前に聞き、当日は18の質問に対してクイズ形式で答えながら進めていく構成としました。前方に子ども専用席を用意し、より近くで真鍋先生のお話を聞いてもらえる工夫をし、恐竜大好きの子どもたちは目を輝かせて聞き入っていました。


真鍋先生の講演は、最新の論文からのデータやご自身の体験談などを交えて盛りだくさんでした


会場の練馬区職員研修所

会場の入口では、ねり☆エコマスコットキャラクターの
ねりねこ☆彡がお出迎え

受付(2F)では、ねりこんvvがお出迎え

受付の様子

子供用参加記念品。抽選でいずれか一品

参加者へ配布された資料。
一番手前は大人用参加記念品(室温チェッカー)

前2列は、子ども専用席を用意しました

主催者あいさつ

ねり☆エコ 横倉尚会長の挨拶


横倉 尚 会長

 ねり☆エコでは、毎年12月の地球温暖化防止月間に、練馬区の小・中学生を対象にそれぞれのテーマに通じた先生をお招きし、講演会を開催しています。これまで、宇宙や南極、海洋の話をテーマとした講演がありました。

 今回は国立科学博物館の真鍋先生から恐竜のお話を伺います。恐竜が元気に活躍した時代が続き、それが突然絶滅してしまった話はみなさんご存知かと思います。恐竜絶滅については諸説あるようですが、地球環境が大きく変わったことが考えられると思います。地球の長い歴史の中で、様々な生物が生存し絶滅していますが、現代の世界の中では重要なことは、私たちの普段の生活が地球環境に悪い効果をもたらしているという事実があり、生き物にも影響を与えているということです。そういう意味では恐竜の話も、現代の私たちの生活にまったく関係がないわけではありません。恐竜の話から地球環境の変化、地球温暖化について考えるきっかけになれば…と思っています。

真鍋先生のプロフィール


真鍋 真 博士

講師:真鍋 真(まなべ まこと)博士
国立科学博物館 標本資料センター長

【プロフィール】
昭和34年(1959年)東京生まれ
横浜国立大学教育学部卒業、米イェール大学大学院理学研究科修士課程修了、英ブリストル大学大学院理学研究科博士課程修了、博士(理学)。 平成6年(1994年)国立科学博物館地学研究部・研究官。博物館での研究を進めながら、東京大学、筑波大学など多くの大学で指導。平成28年4月(2016年)から国立科学博物館標本資料センターのセンター長、分子生物資料センター長も兼任。「せいめいのれきし」(岩波書店)、学研の図鑑「恐竜」など多数の本の監修も手がける。

講演


子どもたちの質問に対して、
2択3択を用意し、一緒に参加しながら
考える講演会のスタイル



参加者は自分の考えを挙手で表します


講演会全体の様子

今回は皆さんから事前にご質問をお受けし、それに答える形式で最新の恐竜学についてお話ししていきます。また、私たちがそこから何を学べるのか、一緒に考えていきましょう。

Q1
恐竜は鳥へ進化したそうですが、体の大きさはどの様にして小さくしたのですか?(小6)

ア、もともと小さかった?
イ、ダイエットした?

 恐竜は大きいものも、小さいものもいましたが、小さいものがシェアを伸ばしていき、鳥になっていったと考えられています。

 生き物はもともと水の中だけで、魚しかいませんでした。魚の中から両生類(カエルやサンショウウオの仲間)が出てきて、ヒレが手足に代わって陸に上がれるようになりました。だけど、カエルの卵は鶏の卵みたいに殻があるわけではないので、陸に産むと卵が干からびて死んでしまいます。そのため水の中で産卵しています。

 それに対して、鳥の卵は殻に守られていて、乾燥に強いので、木の上に巣を作り産めるようになっています。両生類は卵を水の中で産むしかなかったけれど、その後、誕生した爬虫類は殻のある卵を産めるようになりました。陸のどこでも産卵できるようになったのが大きな違いです。

 ワニやトカゲの卵も、硬い殼がついています。私たち人間はお母さんのお腹から産まれてくるので、哺乳類は殼のある卵のイメージはないと思いますが、哺乳類も、もともとは卵の殻をもって産まれていました。殻のある卵を産めるようになった爬虫類が水辺だけでなく、陸上のいろんなところに進出していき、そして恐竜が誕生しました。

 恐竜は普通の爬虫類のワニ、トカゲなどと何が違うのでしょう。爬虫類はガニ股腕立て伏せをして、お腹を引きずったりしながらはって歩きます。それに対して恐竜は、二足歩行で立ち上がってサクサク歩いたり、早く走れました。そうすると獲物に追いつけるし、敵からも早く逃げられます。同じ時間とスタミナで遠くまで行けるなどと、他の爬虫類より有利なので、恐竜が繁栄したと考えられています。

 恐竜の足跡を見ると、まっすぐ一直線のように足跡が並んでいます。爬虫類の様にガニ股だと、足が離れてしまうので一直線にはなりません。また、骨の構造からも恐竜とわかる大きなポイントがあります。股関節を見ると普通の爬虫類は浅いくぼみになっているのに対し、恐竜は穴が開いていて骨が深く入り込むのでガニ股になりません。骨盤に穴が開いているのは、恐竜とその子孫の鳥類だけです。首長竜やプテラノドンたちは穴が開いていないので、恐竜には分類されません。首長竜はトカゲに近く、プテラノドンなど翼竜の仲間はワニと恐竜の間くらいの爬虫類と言われています。

 恐竜は大きいものが有名ですが、もともと小さくて2足歩行のものしかいなかったようです。その中から、大きくて4足歩行になるものが出てきました。なぜ大きくなれたかというと、草食恐竜が出てきたからです。最初に、植物を食べようと思ったチャレンジャーですね。爬虫類はふつうは肉食ですが、植物の方が資源は豊富だし、相手が逃げないのでゲットしやすいです。但し、植物は肉より繊維質で固いので消化に時間がかかります。植物を食べ始めた初期の恐竜たちは、長い腸で時間をかけて消化するしかなかったので、胴体がどんどん大きくなってしまいました。恐竜が大きくなれたのは植物を食べるようになった結果のひとつだったのでは、と考えられています。

 肉食のライオンの胃腸は7メートル。草食の牛は40メートル。今の哺乳類でも草食の方が体は大きいです。ちなみに、人間の胃腸は7~9メートルです。植物を食べることで大きくなっていった草食恐竜、全長35メートルの恐竜が世界最大です。

 でも、おそらく2017年早々に、新しい恐竜がデビューします。ニューヨークのアメリカ自然史博物館に展示されているアルゼンチンのティタノサウルス類という恐竜で、全長37メートル、推定体重70トン。この恐竜が世界最大でしょうと言われています。研究中のため学名はまだありません。

 ミクロラプトルという全長70センチのとても小さい恐竜もいました。前と後ろ足のあたりにある4枚の翼で木の枝から枝に乗り移っていたのですが、段々羽ばたき能力が高まって、飛べるようになったのが鳥と言われています。羽ばたき能力が高まると後ろ足に翼がいらなくなり、今の鳥には後ろ足に翼がありません。

Q2
恐竜の耳はどこにありますか? よく聞こえたのですか?(小4)

耳たぶはあった?
ア、あった
イ、なかった

 恐竜の耳たぶは、ミイラ化石という柔らかい化石からも見つかっていません。外に出っ張っている耳は哺乳類の特長で、爬虫類、鳥類も耳たぶはありません。

 皆さん、自分の耳の穴に手を触れて、口をもぐもぐ動かしてみてください。そうするとあごの動きを感じますよね。あごの関節の近くに耳があります。骨伝導という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、もともと爬虫類は地面をはいつくばっているので、あごを地面に乗せて、その振動が耳に伝わって音を聞いていたのではないかと言われています。

 三半規管を見ると耳の感度の良し悪しがわかり、耳の良い恐竜もいたのでは、と言われています。

Q3
ティラノサウルスにも羽毛が生えていたと聞きましたが、どれくらい昔の恐竜から羽毛があったのですか?(小4)

ティラノに羽毛?
ア、あった
イ、なかった

 ティラノサウルスから羽毛もウロコも見つかっていませんが、羽毛で覆われていた確率が高いと考えられています。そもそも20年くらい前までは、羽毛は鳥にしか生えていなかったので、飛ぶためのものと考えられていました。1996年に羽毛恐竜が見つかり、翼がなくてフリースみたいな羽毛を体にまとっていることがわかりました。爬虫類のワニは変温動物なので自分で体温を一定にできません。体温が低いと日向で体を温めて、暑いと日陰で体を冷ます、日陰と日向を往復しています。

 2014年にクリンダドロメウスという、新種の恐竜が発見されました。これは頭から胴体まで羽毛が生えていて、尾がウロコでした。以前は、恐竜の一部が鳥に進化し、羽毛はその過程で生えたと思われていましたが、現在は、鳥に進化しない恐竜でも羽毛が生えていたことがわかり、恐竜にはその進化の初期から羽毛が生えていた可能性が出てきました。太陽が沈むと体温が下がりますが、それを下げないようにする、私たちがダウンジャケットを着るように、変温動物出身でも恒温動物になりかけていたと言われています。

 2015年、驚きの発見がありました。南米で、夜にトカゲが巣穴で寝ているところを特殊カメラで撮影すると、体がポカポカと温かそうなことがわかりました。変温動物は外が寒いと体も冷えるはずなのに、どのように体温をあげているかは謎です。しかし、常に体温が高い訳ではなく、卵を産む数か月間に体温を高くして、卵を温めて早く孵化させるのに役立っているらしい、ということも発表されました。爬虫類は変温動物と決めつけていましたが、今の動物でもわからないことはたくさんあります。

Q4
ティラノサウルスの子供には羽毛が生えていたそうですが、アロサウルスの子供などにも羽毛が生えていたのですか?(小4)

アロサウルスに羽毛
ア、あった
イ、なかった

 もともと子どもには羽毛があったらしいという説もありました。温暖な地球では体が大きいとオーバーヒートしやすいので、大人には羽毛が生えていないのでは、と言われた時代があります。

 今は、大人のティラノサウルスも含めて羽毛が生えていた確率が高いと言われています。中国で発見されたユウティラヌスは全長9メートル。羽毛がふさふさ生えていて、首のあたりは20センチ、腕のあたりは16センチ、しっぽのあたりは15センチくらいの羽毛が生えていることがわかっています。体が大きいから羽毛が不利になるということはもう考えなくていいのでは、と言われています。

 もしかしたら、5年後、10年後の恐竜図鑑を見るとほとんどが羽毛になっているかもしれません。いい化石が見つかったら、羽毛のことがもっとわかってくるでしょう。ぜひ見つかってほしいと思っています。

Q5
ティラノサウルスは、時速20キロで走れると聞きましたが、50キロで走れるという説も聞きました。50キロも出せるのでしょうか?(中1)

時速50キロ出せた?
ア、出せた
イ、出せなかった

 コンピュータシミュレーションで骨格、筋肉などから推測すると、40~50キロくらいは出そうと思えば出せたのでは、と言われています。ジュラシックパークの映画では時速80キロと言われていますが、それは難しそうです。

 ただ、安全巡行速度を研究した人がいて、転んでもけがをしない速度は15キロくらいではないかと推定。ティラノサウルスは全長12mの体で、前足は人間の腕と同じ位の長さで96cmしかついていませんでした。転ぶと頭から落ちてあごが骨折し、二度と食べ物が食べられなくなってしまうのでは、と考えられました。頑張れば40~50キロ出せたけれど、かしこいティラノサウルスはそこまで出さなかったと言われています。

Q6
ティラノサウルスよりも強い草食恐竜はいたのですか?(中1)

ア、いた
イ、いなかった

 ティラノサウルスは、トリケラトプスをしとめきれなかったという化石があります。右の角に後ろからティラノサウルスがかみついたらしいという化石が見つかっています。また、首をおおうフリルにも骨折の跡があります。これをX線で見ると、骨が再生しているのでその場で死んだのではない、ということもわかっています。このような化石はは一つしかないのではっきりしたことはわかっていませんが、こんな風に狩に失敗したことも読み解くことができます。

Q7
羽毛の色がわかったものもあるようですが、皮膚の色もわかった恐竜もいますか?(小4)

恐竜の色?
ア、わかる
イ、わからない

 最近では条件がよければ、色もわかるようになりました。確実にわかっているのは、恐竜の骨や歯はもともと白色で、これが黒や茶色になったりするのは、地面に埋まっているときに、いろいろな成分がしみ込んで汚れているからです。

 2010年にアメリカの大学院生がすごいことを発見しました。中国で見つかったアンキオルニスは、全長50センチ、大人の恐竜としては一番小さいのですが、顕微鏡で羽毛をみると、粒の形の違うメラニン色素がありました。細長い粒が黒・グレー・白。そして丸い粒が茶・赤・黄色。そこから全身が黒っぽくて、頭とほほに赤のワンポイントがある恐竜と分析しました。

 また、色で大人か子どもか、オスかメスかがわかります。現代の鳥類で頭が赤いのは大人のオスだけです。もしかしたら、オス・メスを見分けるのに、頭のてっぺんを赤くしていたのかもしれません。1種類の恐竜しかわかっていませんが、オスとメスを瞬時に見分けられるのは、恐竜時代から始まっていたのかもしれないことが想像できます。

 また、皮膚の色ですが、メラニン色素でわかるのですが、色素が奥深くにあるため、構造色と言って、光の屈折で違う色に見えたりすることがあり、確実にこの色だったとは言いにくいです。

Q8
小天体の衝突で恐竜は絶滅したと聞きましたが、他にも原因はありますか?(小4)
恐竜はなぜ絶滅したのか?(小4)

ア、小天体
イ、火山

 かなり長い間、火山噴火が起こっていましたが、それが直接の原因だとは言いにくいです。他にも花を咲かせる植物が出てきて、それに適応出来なかったという説もありますが、説明はできません。

 アメリカのコロラド州で、6600万年前の地層に地球外の隕石や小天体などに含まれた成分のイリジウムが非常に多く含まれています。また、石英(せきえい)が見られ、この石英結晶に斜めの線が観察できます。この構造は、強い衝撃で変形が起こるもので、大きな隕石などがぶつかって、中にあったイリジウムがばらまかれたのではないかと言われています。

 6600万年前に、メキシコからカリブ海に直径10キロメートルくらいの大きな隕石がぶつかって、水蒸気と隕石のかけらと、海底の破片がバラまかれました。それが大気圏に層を作ってしまい、太陽光線が届かなくなり、地球は寒冷化しました。植物は光合成ができなくなって枯れてしまい、植物を食べていた恐竜は食べ物がなくなり、草食恐竜を食べていた肉食恐竜も困る、という連鎖反応で恐竜が絶滅してしまったと考えられています。

 この北アメリカに落ちたイリジウムが、日本からもニュージーランドからも確認されています。この衝突は、全世界的に影響を及ぼしたと考えられています。

Q9
恐竜が絶滅するのに何年かかったの?(小5)
新生代にも、まだ恐竜はいたのですか?(中2)

新生代にも恐竜は
ア、いた
イ、いなかった

 今のところ、新生代6600万年前より上の地層からは恐竜は見つかっていません。2016年の春休みに「アーロと少年」という映画が上映されました。この話では、隕石が地球にぶつからないで通り過ぎます。そうすると、Q8でお伝えしたような、寒冷化は起こらず、光合成もできるので恐竜は絶滅しないということになります。

 そうすると哺乳類も独自の進化を遂げ、「アーロと少年」に登場する少年のような人間が現れるのかもしれませんね。2012年にアメリカで発表された論文では、ヘビやトカゲは30種類いたのが、6600万年前の隕石がぶつかった後には5種類に減っています。でも完全にいなくならなかったからこそ、今もヘビやトカゲが存在しています。

 「鳥以外の恐竜は絶滅したのに、ワニ、カメ、トカゲ、ヘビが生き残っているのはなぜですか」と聞かれたときに、私は「省エネだったからです」と答えています。寒冷化して植物が枯れると食料が減り、多くの恐竜は飢え死にしたと思われますが、ワニ、カメ、トカゲ、ヘビなどの変温動物は、恒温動物の恐竜より食べる量が少なくても生きていけた。だからサバイバル率が高かった、と説明しています。

 ヘビやトカゲは30種類から5種類に減っているので、省エネという説明が当てはまるのか、という疑問もあるでしょう。トカゲのあご、ヘビの背骨など断片的なもので全体を推定してみると、白亜紀の恐竜時代ではトカゲは全長85センチ、体重6キロ、ヘビは170センチ体重3キロという大きいものが存在しました。隕石衝突後は、トカゲは30センチ、ヘビは95センチという小さいものしかいなくなりました。つまり、ヘビやトカゲでも小さい種類だけが生き残り、大きな種類は絶滅しています。ヘビやトカゲの中でも、食料が少なくてすむ種類がサバイバル率は高かったので、省エネであることは大きな意味を持っています。

 きちんとわかったわけではありませんが、絶滅までの時間は、数百年から数千年の時間をかけて徐々にいなくなったのではないか、と言われています。

Q10
今後、恐竜のような生物は現れないのか?(小4)

ア、はい
イ、いいえ

 進化の過程で同じようなものが復活してくる確率は非常に低いです。映画「ジュラシック・パーク」や「ジュラシック・ワールド」の話は、恐竜の血を吸った昆虫が琥珀のなかにいて、その血液を取り出してクローニング技術によって恐竜を復活させる…、というものでした。

 復活ということに少し注目してみます。鳥のDNAを見ていると、680万年くらい経つと期限切れで、DNAはあってもその正確なデータは取り出せない、という研究が発表されています。鳥以外の恐竜で一番新しいのが6600万年前なので、680万年とでは一桁違います。たとえ恐竜の血が残っていたとしても、そこから恐竜を復活させるのはかなり難しいようです。

 私が監訳した「恐竜再生」という本にも書いていますが、実際に復活させることはできなくても、今の鳥のDNAの中に、恐竜から受け継いでいるものもたくさんあります。例えば、鳥は羽毛で身体を覆われていて、足にはウロコがある。そこで羽毛ができるスイッチを切るとウロコに戻る、ということを実験的にやっていくと、今の鶏から恐竜が復活することもあるのではないか? これは復活が目的ではなくて、今の鳥の遺伝子がどれだけ恐竜の遺伝子を受け継いでいるのかを理解するために研究しています。

 恐竜復活は無理だろうと思いますが、時計を巻き戻すように、もしかすると恐竜が生まれてくる可能性があると、考えている人もいます。

Q11
恐竜研究は、今何に活かせる?(小4)

 5億年前のカンブリア紀から振り返ってみると、三畳紀、ジュラ紀、白亜紀の恐竜の時代はよくご存じだと思います。今までに地球上の生命が危機的状況になったことが5回あります。その一番最近が、6600万年前の恐竜絶滅でした。今と関係がないと思うかもしれませんが、実は現代の地球は6回目の大量絶滅が起こっていると言われています。

 具体的には、西暦1500年以降に魚、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類の大型脊椎動物が、320種絶滅しているのがわかっています。その中で2016年9月の論文では、「海の大型の動物の種類がどんどん絶滅している。人間がとりつくしたから、人間が地球環境に影響を与え気温を高くしたから…などの理由で生物が減ってきている。特に大型の生物がいなくなっている状態は、恐竜の絶滅時より深刻なのでは?」とも言われています。

 6600万年前の恐竜の絶滅は、今の役に立たなさそうに思えるかもしれませんが、今後、世の中がどう変化していくかを考えるときに非常に重要です。大型と小型の生き物たちが、少ない資源でどのようにサバイバルをしてきたのか? 今回の絶滅の原因は、人間が産業活動することで引き起こされたものですが、起こっている現象はもしかすると似ているのかもしれない、と注目されています。

Q12
進化とは逆に退化する生物がいると思うのですが、進化論に対して退化論があるのですか?(小6)

退化論
ア、ありそう
イ、なさそう

 進化は改善するイメージがありますが、退化も進化のひとつです。シーラカンス類の化石は世界中で見つかっていて、アフリカのモロッコには全長3.8メートルのシーラカンス類がいました。現在は深い海底にしかいませんが、恐竜時代には川にも湖にもそこら中にいたようです。その後、シーラカンス類の化石も見つからなくなったので、恐竜たちと一緒に絶滅したと思われていましたが、海底洞窟に生き残っていたのですね。

 現在の魚は早く泳ぐことで身を守っていますが、シーラカンス類はスピードを出すことが得意ではありませんでした。海底洞窟のように狭いところに住めば、早さは求められないですみます。太いひれで立ち泳ぎやバックができることが有利に働き、海底洞窟には今もシーラカンス類がいることがわかってきました。

 こうしたことから退化は悪くなるイメージではない、ということを気づかせてもらえますね。

Q13
恐竜の化石が埋まっていそうな場所はどうやって見つけるのですか?(小4)

ア、ハイテク
イ、勘(かん)
ウ、努力

 素朴な疑問ですが、知りたいですよね。勘も重要ですが、多くの場合は努力です。私も2016年10月にアメリカ西部へ調査に行ってきました。今まで見つかっているところなので、その周辺で見つかるだろうという思いはあっても、広い土地だからどこから手をつけていいのかわかりません。そんな時は雨が降るのを待って、一番谷底に移動します。そうすると、がけの上から流されて低いところにたまった白い破片、つまり骨の化石がたくさん見つかります。これがどちらの方向から流れてくるのかを読み取って、よじ登っていくと骨格の残りの部分や他の個体の化石が見つかることがあります。すごく地味ですが、こうした努力の積み重ねで化石に出会うしか、今のところ方法がありません。

Q14
学名をみているうちにラテン語に興味がわきました。恐竜の学名の意味を知るのに良いラテン語の辞書はありますか(中1)

 恐竜の学名は世界中の人が使うので、英語でもフランス語でも日本語でもありません。ラテン語やギリシャ語などの古い言語に基づいて名前を付けると、世界中の人たちに公平になるとと始まったシステムです。

 例えば、マイアサウラという恐竜がいますが、なぜサウルスじゃなくて、サウラなのか。マイアは女神さまの名前だから女性形です。だからサウルスの女性形ということで、サウラになった。そういうことを聞くとラテン語の勉強もしてみたくなりますよね。2017年1月に「語源が分かる恐竜学名辞典」なども出版されます。

Q15
昔と今では恐竜の想像図はどのように変わりましたか?(中1)

 お母さん達が子どもの頃の本は、二足歩行の恐竜の姿勢がなんとなく人間っぽく、植物を食べる大きな恐竜は水中で生活していて、たいてい顔はどう猛に描かれていました。でも、今は全然違います。

 私が子どもの頃好きだった「せいめいのれきし」(1964年出版)という絵本があります。改訂版(2015年)を作る際は、お手伝いをしました。この本でも、初版では、体重が重い身体の大きな恐竜は水の中に住んでいて、浮力で身体を支え、柔らかい植物を食べるため歯も貧弱に描かれていました。最近では、心臓まで水につかると血圧が上がる、水の中だと歩きにくいなど、いいことがないとわかってきたので、水の中に大きな恐竜は描かれていません。

 その他でも、昔の絵では、恐竜はしっぽを引きずった状態でしたが、今はピンとしっぽを張って素早く動いている絵に変わってきています。

Q16
恐竜を研究する人になるには、どうしたらいいですか?(小4)

 一生懸命勉強することですね。恐竜だけが好きでも、爬虫類、鳥類、哺乳類のことも勉強が必要です。いろいろな生き物への興味を持っていてほしいと思います。

 「大学は何学科へ行けばいいでしょうか」という質問をよく受けます。地球科学科、地学科、生物学科、動物学科、獣医学科などがあります。獣医学科は、偏差値的には人間のお医者さんより難しい場合もあります。地層の勉強をするなら地球学科もいいし、生物学科、動物学科も順当なところですね。

 私がここ10年くらいお勧めしているのは、獣医学科です。魚を専門にしているところは少ないけれど、家畜を含めていろいろな動物の解剖学を勉強できます。今までに7人が獣医学科に進学したと報告に来てくれました。その後、獣医の仕事に興味をもって「恐竜やめます」と謝りに来てくれた人もいました(笑)。

Q17
先生の好きな化石は何ですか?(中3)

ア、ティラノサウルス
イ、トリケラトプス
ウ、ディプロドクス

 僕は3つの中では、個人的にはトリケラトプスが好きです。世界の国々では、どの恐竜が一番人気があるのか調査結果がありますが、2か国を除き、どの国でも一番人気がある恐竜は、ティラノサウルスです。日本はティラノサウルスよりトリケラトプスの人気があり、平和的なトリケラトプスが日本人に合っているという説もあります。ちなみにトリケラトプスが好きなのは日本だけです。あとの1か国はフランスで、ディプロドクスが1位です。フランス・パリの自然史博物館で一番大きくて目立つ展示がディプロドクスだから、馴染みがあるのかもしれませんね。

Q18
学名のついている恐竜は何種類?(小4)

ア、100種
イ、1,000種
ウ、10,000種

 現時点では恐竜は1,000種類ですが、長生きしたら10,000種になります。現在、鳥だけで10,000種類、爬虫類だけで9,000種類、哺乳類だけで7,000種類いることを考えたら、三畳紀、ジュラ紀、白亜紀と繁栄した恐竜は何十万種もいたはずです。恐竜学者になってもやることが残っていないのでは、と心配している人もいますが、やることはたくさん残っています。

当日質問

さらに、当日にも質問がありました。

隕石が落ちた時、肉食恐竜は共食いをしましたか?

 その時だけではなく、共食いした歯型の化石が残っています。お腹がすいて共食いをしていたようですが、自分と同じ種類の恐竜とわかっていたかどうかは不明です。

大型の肉食恐竜は大型の草食恐竜を襲っていたのですか?

 歯型などの直接の証拠は多くはありませんが、襲っていたと思われます。

 歯型は、骨まで歯が突き刺さらないと残らないので、肉を食べるだけなら歯は骨まで届かないし、また肉が厚い大型恐竜は、歯が骨までは達する確率は低いと考えられます。

 小型恐竜が襲うのは難しいので大型どうしが襲うことはあったと思いますが、どう襲われたかは明確な証拠がないのでわかりません。

ティラノサウルスはスーパーサウルスのような大型恐竜に勝てたのですか?

 体が大きいと足を一振りするだけでインパクトがあるので、さすがのティラノサウルスも勝てなかったと思います。

 同じ時代の同じ場所に20数メートルあるアラモサウルスという大型恐竜がいました。子供の頃は小さいので攻撃したり、餌として食べたと思いますが、大人になると簡単には倒せなかったと思います。

 小型恐竜は群れをなして大型恐竜を襲うこともありますが、ティラノサウルスは化石も単体でしか見つかっておらず、群れをなしていた確率は低いです。

隕石が落ちたのは何月頃ですか?

 冬から春頃に落ちたのではないかと言う説があります。隕石が落ちた後に、水面で花を咲かせる蓮のような植物の化石が、池や湖で見つかったのですが、葉の大きさから夏とわかりました。隕石が落ちた後に、地球は寒冷化しましたが、その植物の葉が縮れていたので、夏に氷が張って縮れたのではないかと推定されました。よって隕石は冬から春に落ちたと考えられますが、凍ったから葉が縮れたとは認められないという議論もあります。

 以上で講演会は終了しました。その後、会場内では、本や記念品などへのサイン会を開催。恐竜の絵とサインをひとりずつ丁寧に書いてくださり、興奮気味のお子さんの様子が印象的でした。また、気軽に写真撮影にも応じてくださり、講演会中に聞きけなかったお子さんからの追加の質問にも丁寧に答えていただきました。


講演終了後のサイン会。
真鍋先生は一人一人に笑顔で対応

かわいい恐竜入りのサイン

場内展示

 受付ロビーには、真鍋先生監修の書籍を5冊と、国立科学博物館の案内書を展示。希望者は購入もできるようにしました。
通路には、平成28年度こどもエコ・コンクール入賞作品18点の展示も行いました。

 また、別室を設けて、国立科学博物館からお借りした化石の展示を行いました。始祖鳥の全身骨格(レプリカ)や恐竜・マンモスの歯の実物など様々な化石が並び、手で触れることができる貴重な機会に、「固い!」「ギザギザしている!」「こんなに大きいの?」と、子どもから大人まで興味深く見入っていました。


■閲覧コーナー 講師監修書籍
・せいめいのれきし(岩波書店)
・恐竜・大昔の生き物(学研)
・恐竜のクイズ図鑑(学研)
・学研の図鑑LIVE 恐竜(学研)
・ドラえもんの恐竜ワールド大探検(小学館)など

■購入もできるようにしました

■平成28年度こどもエコ・コンクール入賞作品展示

子どもも大人も、化石に興味津々

■化石
・アーケオプテリクス(始祖鳥)
全身骨格(レプリカ)
・カルカロドントサウルス 歯
・ティラノサウルス 爪(レプリカ)
・ドオビレイセラス(アンモナイト)全身
・ファコプス(三葉虫)全身
・ケナガマンモス(長鼻類)体毛、臼歯

参加者の感想

  •  おもしろかった! 僕の質問を取り上げてもらえていたのでうれしかった。さらに聞きたいことが出てきて、会場でも質問が出来てよかった。(小学生男子)
  •  恐竜は隕石で気候が変わり絶滅した。今は人間の活動で気候が変わっている。このままだと他の生き物が絶滅してしまいそう。家でも節電を頑張りたい。(中学生男子)
  •  区報を見て、恐竜大好きな息子と来ました。NHKで真鍋先生を見て、国立科学博物館にも行ってきました。先生の話を聞くのは初めてなのでとっても楽しみです。あとでサインをもらえると聞いて喜んでいます!(保護者)
  •  子どもたちが恐竜に興味を持ち、夫が興味を持ち、最後は私もはまってしまいました。子どもが学校のポスターを見てこの講演を知り、真鍋先生が練馬に来る!こんなチャンスは二度とない、と思い申し込みました。(保護者)
  •  優しい言葉で話してくださったので子どもにはちゃんと伝わるし、大人にも十分楽しめる内容でした。子どもが図鑑をたくさん持っているのでよく一緒に見ていますが、図鑑に載っていないような最新の研究情報のことも知ることができてよかったです。質問形式で、こちらに呼び掛けてくれたので、子どもも飽きることなく最後まで聞けました。(保護者)

 大変多くのお子さんと保護者の方にご参加いただき、まことにありがとうございました。

 また、真鍋先生をはじめ、国立科学博物館、文化堂書店など、関係各位のご協力に、改めて御礼申し上げます。

ページの先頭に戻る