ねりまのエコ語り
練馬区地球温暖化対策地域協議会会員
一般社団法人東京都建築士事務所協会 練馬支部長
練馬区都市計画審議会委員
瓦井隆司建築設計工房代表取締役 一級建築士
1960年栃木県鹿沼市生まれ。建築事務所での勤務を経て、2012年3月瓦井隆司建築設計工房設立。2019年4月東京都建築士事務所協会練馬支部長に就任。大学時代は山岳部で鍛え、20代後半からサイクリスト(スポーツバイク)。練馬区在住歴は約40年。
建築士事務所協会とは
東京都建築士事務所協会は、どのような活動をされていますか。
東京都建築士事務所協会は、建築士法により定められた団体です。都内の建築士事務所の業務の適正な運営と健全な発展を図りながら、建築主である一般の皆様の利益保護のための活動を行っています。また、建築や設計をより身近に感じていただくための活動を幅広く行っています。このため、建築に関する最新情報の提供や講習会なども実施しています。練馬支部では、「建築無料相談」を練馬区役所本庁舎1階で毎月1回、第4月曜日に実施しています。「地震が起きても大丈夫?」「健康的な家に住みたい」など、建築に関することでお困りのときは、練馬支部会員が相談を無料で行っています。
さらに、区民の皆さんの安心・安全のため、長年にわたり練馬区と協力態勢をとりながら、耐震診断および耐震改修の実施など活動を広げています。(現在、練馬区では、無料簡易耐震診断、耐震診断・補強設計・耐震改修工事費の助成を行っています。建物が助成対象かどうかは、調査が必要です)
また、東京都建築士事務所協会が毎年開催している「ふれあいフェア」の中では、各支部が地元自治体を紹介する東京百景・東京建築マップと題して絵はがきを作って紹介しています。
東京建築百景などのポストカード(昨年はブルーベリーの農園を紹介)
「微地形・微気候、身近な風景を大切にしたすまいづくり」という考え
瓦井さんは、「微地形・微気候、身近な風景を大切にしたすまいづくり、まちづくり」に取り組まれています。どんな考えや思いを込めていますか。
地球温暖化という大きなテーマはあるけれども、いち生活者の視点で身近な地域を細かく見る必要がありますし、活かそうと考えています。例えば、窓際の空間がひらけているのであれば眺めのいい方向に向けて窓を開け、直射光を活かしますし、建物が近接した条件であれば、間接光を活かすことを考えます。もしも近くに森があったら、夏涼しい風が吹いてくるかもしれません、その風を吹き入れたいと思います。地域ごとに、個々の家ごとに特性があります。断熱・気密のしっかりした家で生活する中に、光が入ってきたら気持ちがいい、風が抜けたら気持ちがいい、そんな日々の変化を感じられるほうがいいというのが私の考えです。住宅や建築・まちづくりを考える上で、その場所の特性を活かすことを大切にしています。
事務所兼自宅の光を取り入れた心地のいい空間
いつから建築家を目指したのですか。
高校生の夏休み、テレビで廃墟になった直後の軍艦島の特集番組を見たのがきっかけです。東京電機大学の阿久井喜孝先生が説明していました。軍艦島は日本で最初の鉄筋コンクリート造で、大正時代に完成したものです。先生は軍艦島の超高密度の生活空間を研究していて、面白そうだな!と興味をそそられました。
「微地形・微気候」という考えは、建築家としてはじめから持っていたものですか。
学生時代、「象設計集団(建築設計事務所)」の影響を受けました。象設計集団の代表作は、日本建築学会賞を受賞した沖縄県の名護市庁舎です。海からの風を取り込んで、エアコンなしでも快適です。また、フィンランドを代表する建築家アルヴァ・アアルトも、地域の生活スタイルや風景を活かすデザインや素材に惹かれました。
『建築家なしの建築』(バーナード・ルドフスキー著)という本も強く記憶に残っています。世界各地の集落や住宅をどう作っているのかを紹介した内容で、自分たちの生活を快適にするために、地域の特性に向き合い、知恵や工夫をこらしています。建築界の名著だと思います。
断熱基準の低い日本、加速する住宅の省エネ化
最近の住宅に関する動きを教えてください。
建築物省エネ法が改正され、建築士は、令和3年(2021年)4月から「この建物はこれくらいの断熱性がある」「こういうものを入れたら省エネ効果はこれくらいになる」と、建物の断熱性能や省エネ効果について説明する義務を負うようになりました。
また、同法が令和4年(2022年)6月に改正され、断熱基準が引き上げられることが決まりました。2025年以降だんだん厳しくなっていきます。つまり、新築住宅については建物の断熱性能を上げて熱損失を少なくし、省エネ家電や省エネ機器を使って、エネルギー消費量を少なくしようということです。
日本の住宅の断熱基準や省エネ性能は欧米より遅れていたので、今回の建築物省エネ法の改正により、2030年以降、ようやく欧米並みの基準になると思います。
※建築物省エネ法について、詳しくは「建築物省エネ法について(国土交通省)」をご覧ください。
建築士事務所協会練馬支部が練馬区から委託を受けて実施している、住宅の簡易耐震診断(昭和56年(1981年)5月以前に旧耐震基準で建築された建物が対象)の仕事にかかわる中で、一番感じることは1階の床が冷たいこと。とくに高齢者は、大変つらいだろうと思います。耐震診断なので耐震性を上げるための耐震改修が第一ですが、壁や床を一旦壊して行うことになる耐震改修工事に合わせて、生活改善のための断熱改修や、浴室などは安くて手入れが楽なユニットバスをすすめしたりしています。生活改善にかかわる提案は、建築家の務めだと思っています。
東京都は2025年4月から、新築戸建てに対し太陽光発電の義務化を決定しました。瓦井さんはどのようにみていますか。
太平洋側は日照量が多いので、太陽光パネルを設置すれば発電効果は高いでしょう。一方、廃棄のことやコストバランスなど、課題もあると思います。
地球温暖化対策として意識していることはありますか。
個人事務所を以前に作ったとき、「アトリエグローカル」という名前にしました。地球規模の問題やテーマについて建築を通して考え、環境負荷対策や出来ることをローカルから考える、という思いを込めました。ただ単に、工業製品を否定するものではありません。工業製品があるからこそ行き渡るという良さがあり、その上で建築資材など地元のものをできるだけ活かそう、という考えです。
エコ暮らし、手軽な省エネのコツ
ねり☆エコホームページの『ねりまのエコ暮らし帳』建物編で、『エコ住宅―自然光が差し込み風の通る家づくり―』と題して、瓦井さんに住宅の省エネのコツを執筆していただきました。ここは事務所兼ご自宅ということですが、工夫されていることはありますか。
賃貸なのであまり手を加えられませんが、『ねりまのエコ暮らし帳』に書いたように、窓に木製ブラインドをしたところ、夏の遮熱がすごくいいと実感しています。冬はブラインドの上の高窓に両面張りの障子を入れ、断熱性能を高めています。夏は障子を外し、高窓から風を取り入れられ空が見えるようにしています。
羽の幅の広い木製ブラインド、高窓の両面張りの障子
床は、もともとあった畳を外し、その段差を利用して、8mmの断熱シートを敷き詰め、その上に12mmのヒノキ合板を置きました。これなら床に傷がついても気になりません。日中、陽が入れば、太陽光を熱として直接取り込むダイレクトゲイン(蓄熱床)で、冬の暖かさがだいぶ違います。
段差を減らしながら、断熱シートとヒノキ合板で断熱効果をアップ
ねり☆エコでやってみたいことは、エコ教育
平成31年(2019年)4月から「ねり☆エコ」の会員になられました。ご意見やご感想はありますか。
「こどもエコ・コンクール」の審査員や、「夏休み!ねりま環境まなびフェスタ」に参加させていただき、子どもたちが絵を一生懸命描いたり、フェスタに楽しんで参加している姿を見て、環境教育が身近な物になっていることがわかりました。次代を担う子どもたちにエコ教育はとても大切です。ぜひ継続してもらいたいです。
こんなことをやりたい、というものはありますか。
私は自転車が好きで、都内の移動はほぼ自転車です。「微気候・微地形」の話にも通じますが、自転車は車やオートバイではわからない、わずかな坂を感じたり、眺めのいい道がわかったりします。ここ数年の環境整備のかいもあって川沿いはどこも気持ちがいいです。かつては排水路のようだった石神井川に、今ではカワセミやシラサギが普通に見られます。生物多様性の豊かさなどもわかります。
エコ教育の一環として、小学校で自転車の乗り方をしっかり教えるといいと思います。最近は、自転車通行帯もできてきているので、サイクリングロードを選定して、各小学校からサイクリングロードまで安全に行けるようにして、サイクリングロードを通り、光が丘公園を一周して帰ってくる、そんな課外授業が出来たらいいと思います。練馬区は武蔵野台地、自然が豊かな土地です、憩いの森制度を利用して残された武蔵野の風景も数多く残っていますし、農地と都市が渾然一体となった風景はエコ教育にもいいと思います。例えば、隣接する自治体を巻き込んで武蔵野サイクリングロード構想のようなものを立ち上げたらどうでしょうか。石神井公園をはじめ、善福寺公園、井の頭公園など、公園を結ぶようにコースを作れば、上ったり下ったり、まちやみどりやみずが体験できて楽しいでしょう。自転車利用の促進に、いろいろ協力させていただければと思います。
(取材日:令和5年1月18日)
愛車は、キャノンデールなど本格的なスポーツバイク自転車