ねりまのエコ語り
練馬区地球温暖化対策地域協議会 会長
1943年横浜生まれ。1977年武蔵大学経済学部に勤務。2013年、同大学を退職。現在、武蔵大学名誉教授。専門分野はエネルギー・環境経済学。環境への心がけは、できるだけ歩くこと。車の運転もしないので、公共交通機関を利用。
新年明けましておめでとうございます。年頭にあたって、まずは一言ご挨拶申し上げます。私は未年生まれの年男なので、本年は個人的にはおめでたい節目の年です(笑)。それはさておき、昨今は自然災害や事故・事件も多く、ともすると不安や懸念から委縮しがちになっているように見受けられます。しかし、実際は悪いことばかりではなく、平成26年には、ノーベル賞受賞やスポーツ界での躍進など、多くの日本人が世界を舞台に活躍しました。我々が考えている以上に、日本の評価は世界的に高まっている(日本円の価値は別としても)と感じます。そうした中で迎えた平成27年は、地球温暖化問題をはじめ国内外の多様な問題をめぐって、将来に影響を及ぼす選択を迫られる年になってくると思います。それぞれに熟慮と自信を持って進んでいきたいものです。
平成26年は、新しいステップの年になった
昨年を振り返ると、地球温暖化対策関連はどのような動きがありましたか?
平成26年は、IPCCの部会が日本で開催されるなど地球温暖化をめぐる国内外の動向に関心が集まった年でした。IPCC は国際的な専門家でつくる、地球温暖化についての科学的な研究の収集、整理のための国連の下にある政府間機構ですが、このIPCCから気候変動に関する第五次報告書が出されました。地球温暖化対策にとって、新たなステージへの“始まりの年”だったと思います。
IPCCの報告によれば、近年の世界的な異常気象、気候変動も、地球温暖化と関連があると指摘されています。毎年暑い夏と寒い冬が繰り返されるなかで、地球規模で平均気温や海水温が上がり、海の酸性化も進んでいるのです。
温暖化対策の面では、CCS(カーボン・キャプチャー・ストレージ)が有効な対策の一つとして取り上げられました。これは、大気中に放出された、あるいは放出される直前のCO2を人為的に集め、地中の油田跡地などに封じ込める方法です。技術的な実証実験がすでに日本でも進められています。
また、昨年末に開催されたCOP20(第20 回国連気候変動枠組条約締約国会議)で、新たな枠組みづくりをめぐって、科学的な最新の知見をベースに、政策的な議論が行われ、平成27年度中には参加各国がCO2削減目標とその達成の方法を世界に明らかにするなど、次のステップが決まる見込みです。
私たち練馬区民とは、どんな関係があるのでしょうか?
新たな枠組みには、CO2最大排出国である米中も参加を表明し、具体的な目標もすでに示しています。日本としても、目標を世界に示さなくてはなりませんが、まだ結論は出ていません。というのも、原子力(発電所)の問題があるからです。
原子力の評価には賛否両論ありますが、かつての「25%減」というきわめて意欲的な目標は、原子力への高い依存を前提としていました。会議を通じて国際的なCO2排出量の削減の枠組みの中で日本の目標が定められれば、国や都の新たな目標を踏まえ、練馬区も削減に一層努めていくことになります。
昨年12月には、関東初の商用水素ステーションが練馬区に開所しましたが。
近年、自然エネルギー(再生可能エネルギー)がクリーンな国産のエネルギーとして重視されていますが、もう一つのクリーンなエネルギーが水素エネルギーです。水素はきちんと安全管理ができれば、安全に利用できるクリーンで効率的なエネルギーで、CO2も出ません。水素をエネルギー源として多様に活用する「水素社会」も唱えられています。
昨年12月に練馬に開所された水素ステーションでは、燃料電池自動車への水素の充填ができます。この水素を空気中の酸素と反応させて電気を作り出す装置(発電機)が燃料電池で、作られた電気が車の動力源となる仕組みです。燃料電池自動車は、世界中のメーカーが力を入れ、普及させようとしています。車は市場が大きいので、これが普及すれば、燃料電池自体の値段も下がります。コストダウンが加速し、家庭用燃料電池も普及することが期待されます。
特に練馬では、自動車が発生源のCO2の排出量が20%に及んでいますが、その中で区内主要道路の通過交通が大部分を占めます。区内を通る車が燃料電池自動車に代われば、地球温暖化だけでなく、光化学スモッグなどの大気汚染も改善されることになります。また、家庭用燃料電池の普及が、家庭のエネルギー利用の効率化やエコ化に役立つことになれば、家庭からのCO2の排出量が過半を占めている練馬区にとっては、朗報です。二つの意味で、水素ステーションが練馬区で開所したことは、意義深いことですね。
ねり☆エコとしては、10月のエコスタイルフェアがとしまえんで初開催されました、いかがでしたか?
ねりま・エコスタイルフェアは、ねり☆エコにとっても大きなイベントの1つです。昨年、会場がとしまえんに移動したことは、結果的に非常によかったですね。練馬まつりとの同時開催で、天候にも恵まれ、人の入りも十分。メインの入り口すぐという最高のロケーションで、たくさんの方に見ていただけました。大盛況でスタッフは大変だったとは思いますが、いい面が多かったのではないでしょうか。
第4回ねりま・エコスタイルフェア開会式の様子
(2014年10月19日)
第4回ねりま・エコスタイルフェアはじめてとしまえん会場で開催。人の流れが途絶えなかった
(2014年10月19日)
燃料電池自動車
練馬水素ステーション
省エネルギー月間講演会「体と心と地球に優しい ファッション」は5倍近くの応募がありました
(2014年2月11日)
省エネルギー月間講演会に先立ってご挨拶する横倉会長
(2014年2月11日)
「省エネライフ2014」会場は、練馬区役所アトリウム
(2014年2月12~14日)
平成27年は、まち全体でエネルギー利用を考える年にしたい
昨今の練馬区内のエネルギー消費・二酸化酸素排出量については、どうお考えですか?
区全体では、平成21年をピークに、エネルギー消費量は減っています。平成23年の東日本大震災後は、さらに節約マインドが進んでいます。ただ残念ながら、家庭と業務部門(工場以外の多種多様な事業所)では、部門全体としてみると、エネルギー消費量もCO2の排出量も減っていません。まだまだ、エネルギーを効率的に使う努力やCO2排出量を抑制する努力の余地はあると思います。
平成27年は練馬区で策定している「環境基本計画」の短期の見直しの年ですが。
練馬区の地球温暖化対策は、「環境基本計画」と「温暖化対策地域推進計画」に基づいています。ねり☆エコそのものは今年で5年目ですが、これまで環境問題自体を知ってもらう活動を事業の中心にしてきました。区の区民意識調査によれば、環境問題の中でも地球温暖化への意識は最も高く、関心や問題意識は浸透してきたと言えます。
そこでこれからは、さらに一歩踏み込み、温暖化対策やエネルギー対策の効果的な方法を実践してもらえるようにしていきたいですね。たとえばLEDは、交換にはコストがかかりますが、技術の進歩や価格の低下によって回収に要する期間は年々短くなってきています。お金をかけても元がとれる方法や成功例もお伝えしていきたい。
さらに、まち全体でエネルギーを考える、エネルギーの利用と環境・自然の保全を一体として考える、といったまちづくりのステップまで進んでいけたらと思っています。個々の努力ではカバーできないこともたくさんあり、まち全体で取り組むことが求められ、期待されている時期に来ていると思われるからです。
折しも練馬区では長期ビジョン・長期計画などの見直しが進められているところで、「環境基本計画」も見直しされることとなっています。こうした計画の見直しに際しても、今後さらに、練馬区の特性にあったエネルギーの使い方やエコの問題を、まち全体で考えていくといった視点が必要でしょう。ねり☆エコも、そのお手伝いができればと思っているところです。
(平成27年1月15日)
難しいお話もわかりやすくユーモアを交えてお話していただきました