区民・事業者・練馬区等がともに地球温暖化防止をめざす

平成30年度 省エネルギー月間講演会 当日レポート

「私たちが直面する2つの気候変化-地球温暖化とヒートアイランド-」当日レポート

期日:平成31年2月3日(日)
時間:午前10時~正午
場所:ココネリ3階 研修室1

概要


講演会全体の様子

ねりこんvvも来場者をエスコート

参加記念品

 節分の2月3日、省エネルギー月間講演会「私たちが直面する2つの気候変化-地球温暖化とヒートアイランド-」を開催しました。当日は冷え込む朝となりましたが、会場の入口では、マスコットキャラクターのねりこんvvが元気に出迎え、100人以上の参加者が集まり満席となりました。

 今回のテーマは、「地球温暖化」と「ヒートアイランド現象」という、練馬区民がまさに直面している“ホット”な話題を取り上げました。講師は首都大学東京大学院教授の高橋日出男氏。地球温暖化の仕組みから、気候変化の現状と将来予測、都市気候の特徴、夏に向けて気がかりなゲリラ豪雨とその対策まで、豊富な資料をもとに、分かりやすく説明していただきました。また、事前に寄せられた質問にも答えていただきました。

 講演会終了後、参加者からは、「とても勉強になりました」「アメダスによる降水量の変化は興味深かったです」といった満足の声があり、個別に熱心に質問する姿も見受けられました。

 また、アンケートに答えていただいた方全員に「あったか リバーシブル ネックウォーマー」を参加記念品としてお渡ししました。

主催者あいさつ


横倉 尚 会長

ねり☆エコ 横倉 尚会長の挨拶

 今日は節分、明日は立春ですが、さすがにまだ寒いですね。

 練馬は全国的にも暑いところとして知られるようになりましたが、冬の寒さという点では、昔のほうが寒かったのではないでしょうか。冬も少しずつ暖冬化の影響を受けているのではないかと思います。

 地球温暖化の問題については、今からおよそ200年前(産業革命以前)の平均気温と比べて、2100年までに最大2℃、できれば1.5℃に抑えようというのが目標です。すでに1℃くらい上昇していますから、我々に残されている上昇幅は、2100年までに0.5℃から1℃という大変厳しい目標となっています。

 そのデータの元となる観測地点は、練馬区では武蔵学園(現 武蔵大学、武蔵高等学校・中学校)構内でした。戦前の1927年より、気象部の生徒たちが活動の一環として気象庁にデータを提供していました。アメダスの仕組みが全国的に展開したのは1977年ですから、それまで、ゆうに50年間は武蔵学園がデータを提供していたことになります。

 データの取り方は、アメダスになり観測方法が統一され、データが自動的に気象庁に送られる仕組みがその後も長く続いていました。しかしながら、学校の構内となりますと、周りに建物がどんどん増え、風通しが悪い、といった状況の変化が進み、「測るところが暑いから練馬は暑い」という説もあるくらいでした。今は日銀のグラウンド跡地に移りましたが、実際、地点を移して測ってみても、練馬はやはり暑いということがはっきりしました。皆さんも練馬に住んでいると言うと、「暑いところで大変ですね」などと言われる機会が多いでしょうが、この練馬の暑さは、地球温暖化という世界全体の変化の影響を受けている多数の地域のうちの1つに過ぎないのです。

 南太平洋のツバルという島国が、水位が上がって国が沈没してしまうということで、地球温暖化対策を世界にアピールしていますが、決して他人事ではないのです。練馬はちょっと先を行っているだけなのです。今日は、そういう話を科学的にご説明いただきますので、「練馬が暑い」と言われたときには、決して他人事ではないんだということを是非ともお話しいただければと思います。

講演「私たちが直面する2つの気候変化-地球温暖化とヒートアイランド-」


高橋 日出男 氏

講師:首都大学東京大学院教授 高橋 日出男 氏

【プロフィール】
1959年東京生まれ。広島大学助手、東京学芸大学助教授等を歴任。
理学博士・首都大学東京大学院 都市環境科学研究科 地理環境学域 教授。

 私は東京の下町で生まれましたが、大学に入るまでは西武池袋線のひばりが丘近くに住んでいました。その後、仙台、広島、そしてまた東京に戻り、現在は、首都大学東京に在職しています。学生時代の研究テーマは「東アジアの梅雨」で、なぜ梅雨になると大雨が降るのか、日本付近というよりは、むしろ中国大陸上で大雨を降らせる低気圧がどのようにしてできるのかを研究していました。東京に来てからは都市気候やヒートアイランドについて、また、最近は短時間でざっと降る雷雨、いわゆる「ゲリラ豪雨」について研究しています。こうしたデータ解析のほかに、私は機械いじりが好きで、気象観測装置を組立てて、学生と一緒に野外で気象観測をしています。そういう自分たちで行う観測によっても、都市気候の仕組みを調べています。

 それでは、本題に入ります。今日は「私たちが直面する2つの気候変化」というタイトルをつけました。


資料1

資料2

 こちらの図は、東京、ロサンゼルス(北米)、サンパウロ(南米)という大陸を代表する大都市の年平均気温の経年変化をグラフ化しています。東京も、ロサンゼルスも、サンパウロも、ほぼ一方的に気温が上昇していて、100年間で3℃くらいの上昇傾向にあります。(資料1)

 一方、地球全体の年平均気温を求めたものがこちらです。(資料2)

 地球全体で見ると、この100年間で0.7℃くらい気温が高くなっていて、これが地球温暖化を反映している気温の変化ということになります。大都市の気温の上昇傾向は、これに比べて極めて大きいことがわかります。つまり、地球温暖化に加え、さらにヒートアイランドによる気温の上昇部分が加わっているのです。

 今日は、「地球温暖化」と「都市のヒートアイランド現象」という2つの気候変化についてお話しします。この2つは、いずれも気温の上昇ということは共通していますが、仕組みはかなり違います。ほとんど“別現象”と言ってよいと思います。

 現象の広がりで言えば、地球温暖化はグローバルスケール、ヒートアイランドは地域スケールの現象です。高さ方向については、地球温暖化では高さ十数kmの対流圏の気温は上昇し、その上の成層圏では低下します。ヒートアイランドの高さは、数十mからせいぜい1,000mくらいの低いところに限定されています。

 メカニズムとして、地球温暖化は二酸化炭素の排出増加に伴う温室効果の増大、ヒートアイランドは都市化と関係しています。そして、地球温暖化は地球全体の大気の流れ(大気大循環)に、ヒートアイランドは(例えば東京の場合、東京湾の存在など)地域の地理的要因に、影響を受けて現れ方が変化します。さらに、地球温暖化はグローバルな経済や政治の問題となっています。ヒートアイランドは国や地域の環境問題になっています。

 このように両者には違いがありますが、根本は「人間の活動が原因」という点で共通しています。また、単に気温が上昇するだけではなく、降水現象にも関係し、生態系への影響もあります。こういう状況を緩和したり、適応したりしていくためには、極めて大きな努力が必要です。

 まず、地球温暖化についてお話しします。2013年~2014年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が第5次評価報告書を出しました。今年は、また新しい版が出る予定です。2018年には、1.5℃の抑制をすればいい方向に向かうだろうという新しい特別報告書が出ましたが、今日は第5次評価報告書からいくつかご紹介したいと思います。

 先ほどの地球全体の気温変化のグラフは、IPCCの報告書の中にあります。この100年ほどは気温の上昇傾向が顕著で、100年当たり0.7℃くらいの上昇傾向にあります。数十年の周期での上昇や停滞はありますが、傾向としては上昇傾向にあります。温暖化というのは1年ごとではなく、数十年あるいは100年という時間スケールで見ていくことが必要です。

 1,000年スケールで気温変化を見てみましょう。まとまった観測データがあるのはせいぜい100年〜150年くらいで、古いデータはありません。なぜグラフができるかといいますと、ひとつはシミュレーションです。人間活動をはじめ、太陽活動の変化、火山噴火の記録などを考慮してシミュレーションし、過去の気温を推定しています。

 もう1つ、よく使われているのは樹木の年輪です。気温が高いときや、降水量が多いときに樹木はよく成長します。このような年輪の幅は世界各地で調査されています。日本には屋久島の杉があります。1,000〜2,000年、ものによってはもっと長いデータがとれるので、かなり貴重です。さらに、昔の人が書いた日記や、南極などの氷河に含まれる酸素同位体などのデータを使い、昔の気候を復元しています。


資料3

 これを見ますと、10〜12世紀は気温が高く、「中世の温暖期」と言われています。そこから気温が低くなって、江戸時代を中心とした15〜19世紀は気温が低い時期に当たり、「小氷期」と言われています。このあたりで産業革命があり、1800年ごろから二酸化炭素の排出量が多くなって気温が上昇しています。ここ最近200年くらいで気温の上昇傾向が大きくなっています。(資料3)

 さらによく見ますと、短い期間ですが気温が下がっている時期があります。インドネシアのタンボラ、クラカタウ、アグンなどの火山で大規模な噴火が起こり、気温の低下に大きく影響しています。

 日々の最低気温や最高気温をみても、やはり気温の低い日が減って高い日が増えているという特徴があります。このような気温の上昇傾向をもたらしているのが、二酸化炭素に代表される温室効果ガスです。では、温室効果とは一体どういうものなのでしょうか。


資料4

 これらは、京都議定書やIPCCの報告書など、国連気候変動枠組条約で温室効果ガスとして扱われているものです。(資料4)

 二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素の3つは、人間活動でも、自然の営みの中でも発生するものです。ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類、六フッ化硫黄、三フッ化窒素の4つは、人間活動によってもたらされるもので、特に工業面から放出されます。

 また、「地球温暖化係数」というものがあります。これは、二酸化炭素を「1」とした場合、どのくらい温暖化への影響力があるかを示したものです。自然由来のものはそれほど大きくはないのですが、人工的なものは桁違いに大きく、排出量がそれほど大きくなくても、強力な温室効果があります。温室効果ガスとして排出される量は、二酸化炭素が圧倒的に多く、メタン、一酸化二窒素の3つで、かなりの部分を占めます。

 地表付近の大気は、窒素と酸素が98〜99%くらいを占めています。二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素は、量としては極めて少ないですが、これらが温暖化という点では大きく影響しています。

 地球の温度に関わるエネルギーを、2つに分けて考えます。1つは太陽から出ているエネルギーで、「太陽放射」「短波放射」と呼ばれ、地球に熱を届ける役割があります。もう1つは、地球から出ていく赤外線のエネルギーで、これを「赤外放射」「長波放射」といい、地球から宇宙空間へ熱を放出して、地表の温度を下げる役割があります。

 毎年だいたい同じ気候が繰り返されるためには、太陽から入ってくるエネルギーと、地球から出ていくエネルギーのバランスが取れている必要があります。


資料5

 実際はどうなっているのでしょうか。IPCCが2007年に出した第4次評価報告書に書かれていますが、エネルギーの出入りはかなり複雑です。地球の大気はもともと温室効果を持っていて、地球表面の温度は、大気がない場合と比べて33℃くらい高い状態を保っています。こうした温室効果が働いている状態で、地球に入るエネルギーと出るエネルギーは釣り合っていて、温暖化の状態であっても、入るものと出るものは基本的に釣り合うことになります。(資料5)

 つまり、温室効果とは、地球の外へ出ていくエネルギーが少なくなることではありません。

 地球にやってくる太陽エネルギーは、地球全体で平均すると342(W/㎡)あります。これが雲に反射されたり、地球表面に反射されて出ていったりします。そして、地球表面に吸収されるものが168(W/㎡)あります。

 しかし、極めて奇妙なことに、地球表面から出ていくエネルギーは390(W/㎡)あります。さらに、地球表面が空気を暖めたり、蒸発に使われたりするエネルギーもあります。要するに、入るエネルギーよりも地球表面から出るエネルギーの方がずいぶんと大きいことになります。

 なぜ地球表面に入るエネルギーよりも地球表面から出るエネルギーが大きくなるのか。ここに温室効果の“カラクリ”があります。

 地球表面から出ていったエネルギーは、温室効果ガスによって吸収されますが、その後、吸収した分は下向きと上向きの両方に放出されます。下向きに放出されるということは、地表から放出したエネルギーの一部が戻ってくるということになります。

 そうすると、地球表面の失うエネルギーが小さくなって、表面の温度が上昇することになります。温度が上昇すると、出るエネルギーが大きくなりますが、温室効果ガスによって吸収され、やはり下向きに放射されます。これによって地球表面は失うエネルギーが少なくなり、温度が高くなるということを繰り返し、地球表面のエネルギーが大きくなります。「出るエネルギーが大きい=表面の温度が高い」ということに相当し、これが地球温暖化につながる温室効果のプロセスといえます。

 IPCCの「1.5℃特別報告書」は、2018年10月に出されました。気温の上昇を1.5℃に抑えられれば、平均気温の上昇、極端な高温、強い降水現象、干ばつと降水不足、生態系が受ける影響、人間生活、政治や経済に与えるリスクなどが「確信度中〜高で低減される」と書かれています。

 1.5℃と言いましたが、この数字は二酸化炭素排出量の将来予測(シナリオ)に基づいて考えられています。想定されるシナリオは「2055年までに正味の二酸化炭素排出量をゼロにし、2030年以降の二酸化炭素以外の放射強制力を減少させた場合」です。極めて厳しいシナリオであり、努力目標ということです。

 数十年も先の気候をどうやって予測するのかというと、数値モデルで予測しています。二酸化炭素の排出量など将来シナリオをもとに、毎日の天気予報と同じようにスーパーコンピュータによってシミュレーションしていきます。大気中のさまざまな気象のプロセスや、大気と海洋や雪氷圏との相互作用などを計算します。

 世界各国の数値モデルを相互利用し、分析する取り組みが行われていて、日本からは気象研究所などの複数の数値モデルが参加しています。一例を挙げると、世界の降水量について、現在と将来(2070年〜2095年頃)を比べると、現在降水量が多い地域ではさらに増加し、少ない地域では減少する傾向が指摘されています。


資料6

資料7

 別の計算結果では、日本付近の平均気温は4〜5℃の上昇で、地球全体の平均(3.7℃)よりも大きいと予測されています。これは温室効果ガスの抑制がうまくいかなかった場合の悲観的なシナリオになりますが、日本全体でかなり気温が上昇することになります。降水量の予測は難しいのですが、温暖化が極めて進行した場合、意外にも日本付近は降水量が減るという予測もあります。(資料6・資料7)

 事前にいただいたご質問の中から、いくつかお答えしようと思います。

 「太陽の黒点活動と気候変動の関係は?」というご質問です。

 太陽の黒点は、太陽活動を示すものと考えられていますが、これが最近減っていて、太陽活動が少し弱まっているのではないかと指摘する人もいます。太陽活動も火山噴火と同じように、地球の気温と関係しています。17世紀に「マウンダー極小期」という、黒点が著しく少なかった時期があり、この頃の地球は気温の低い小氷期にあたります。

 一方で、太陽活動の変化は、宇宙からやってくる宇宙線量の変化に関わっていて、これは雲を増やす、あるいは減らすことにも影響しているとも言われています。雲の変化は地球表面を出入りするエネルギーのバランスに影響を与えるため、地球の気候にとって重要ですが、はっきりしたことはまだよくわかっていません。太陽活動が気候変動にどう関わっているのかは、今後の研究課題です。

 次に「地球温暖化で豪雨が増える?」というご質問です。

 気温が高くなると、空気中に含み得る水蒸気の量がどんどん多くなります。逆に気温が低いと少なくなります。

 上昇気流によって持ち上げられた水蒸気が、上空で冷やされて凝結し、水の粒や温度が低いと氷の粒になります。雨は、水蒸気が凝結したものですので、気温が高いと、凝結する水蒸気も多くなります。そのため、温暖化すると、雨が降る場合には、それだけ雨がたくさん降ることが想定されます。

 後半はヒートアイランドについてお話しします。

 ヒートアイランド現象というのは、都市を中心とした高温のことです。等温線が島のように見えることから、ヒートアイランド(熱の島)と言われています。


資料8

 では、ヒートアイランドとは、どういう形をしているのでしょうか。地上の水平分布としては等温線が同心円状に描かれ、中心で気温が高くなっています。田園地域では気温が低く、郊外付近からだんだんと気温が高くなり、都心付近に高温のピークがあります。(資料8)

 欧米の都市での観測でも、基本的には都心エリアで気温が高く、周辺に向かうにつれてだんだん気温が下がるという特徴は共通しています。

 また、「ヒートアイランド強度」という言葉があります。これは、ヒートアイランドの程度を表す指標として用いていて、都心の最も気温の高いところと、田園地域の平均的な気温の差を指します。

 ここで、皆さんに質問です。このようなヒートアイランド現象が最も顕著に現れるのはいつでしょうか? 手を挙げてください。

  1. 冬の日中
  2. 夏の日中
  3. 冬の夜間
  4. 夏の夜間

 正解は、3の「冬の夜間」です。


資料9

 この図は東京・大手町にあった気象庁のだいたい100年間の気温変化傾向を示していますが、上昇傾向が大きいのは冬の夜間です。1月の夜間の最低気温は、この100年間で4.7℃高くなっています。これに対して、日中の上昇はそれほどでもありません。(資料9)

 8月の最低気温も3℃くらい上昇しています。日中の1.8℃の上昇は、上昇傾向としてそれほど大きいものではありませんが、影響としては大きく、熱中症による搬送者数と最高気温の関係をみると、30℃くらいから急激に搬送者数が増えていることがわかります。

 ヒートアイランドを観測するための地点ですが、気象庁のアメダスは、だいたい15〜20km四方に1地点しかなく、ぼんやりとした図にしかなりません。私たちの研究グループでは、広域METROSと呼ぶ観測網を展開して、小学校の百葉箱に温度計を置かせてもらい、密に気温を測っています。ちなみに、練馬区内では大泉学園小学校と開進第二小学校の2校で気温を観測しています。また、東京都などの自治体では、主に大気汚染の観測を目的として気温を測っている地点も多くあり、そういうデータと組み合わせて気温分布を解析しています。練馬区内では、気象庁のアメダス(武蔵学園⇒練馬区立石神井松の風文化公園)1地点、東京都の大気汚染観測点(都立石神井公園、北町小学校、開進第二中学校)3地点のデータを使っています。

 冬の夜間の気温の特徴を知るため、都心と周辺の気温差、つまりヒートアイランド強度を調べると、日中はほとんど気温差がありません。日没とともに気温差が拡大し、夜間はだんだんと差が大きくなり、日の出とともに気温差が見えなくなります。


資料10

 このように、ヒートアイランドは時間によって変化します。18時くらいから見ていきますと、気温が最も高いのは常に銀座付近です。夜半過ぎにかけて、都区部の北部から南西方向と南東方向に連続的な気温急変域が存在し、しだいに明瞭になります。ちょうど練馬区にかかり、都心とは2℃くらいの気温差があります。私が住んでいるのは玉川上水ですが、新宿から戻ると冬はかなり低いなと感じます。なぜこの辺りで急に気温が変わるのか、というのは今後の研究課題で、まだ詳細がわからないというのが正直なところです。(資料10)

 夏の夜間の気温分布を見ると、やはり都心付近に気温の高いところがあります。しかし、どこの気温が最も高いのか、はっきりしません。冬の場合は銀座付近だったのですが、夏は中心部分がはっきりせず、ぼやっとしているのが特徴です。


資料11

 次に、ヒートアイランド現象の要因について見てみましょう。まず、人工排熱が都市部で大きいこと。地表面がコンクリートやアスファルトで覆われ、草地が少ないこと。さらに建物が高くなるなど高密度化し、熱が逃げにくくなっていることがあげられます。私が大学生だった約30年前は、ヒートアイランドは人工排熱の増加が要因だと言われていましたが、現在はどちらかというと、このような土地利用、建物の影響が大きいのではと考えられています。(資料11)

 これまでは、地表付近の話でした。これからは、立体構造をご紹介します。冬の夜間は、地表から熱が奪われる現象(放射冷却)が強く現れるので、地表に近いところは冷やされて温度が下がり、上空は温度が高いという「逆転層」が形成されます。冬の夜間は、田園地域や郊外付近などの自然が多い地域で逆転層が発生しやすくなります。

 都心では逆転層がどう変化するのか、東京タワーと田無タワー(西東京市)の観測結果を比較してみました。夜間は、陸風が郊外から都心の方へ向かって吹きます。このとき、郊外の逆転層を伴った空気は都心ではどうなるのか。東京タワーでは地表付近と上空の温度はほぼ同じ、つまり、逆転層は壊されていることがわかりました。

 逆転層は下に温度が低い、重い空気があります。言い換えれば、安定した空気です。この安定した空気が壊される要因として、建築物が建ち並ぶことによる地表のでこぼこによって、空気が上下方向にかき混ぜられることが考えられます。さらに人工排熱がプラスされ、夜間の都市部で逆転層が破壊されると考えています。従って、郊外で逆転層が強ければヒートアイランド強度は大きくなります。つまり、ヒートアイランド強度は都市だけではなく、郊外の大気も関係してきます。

 皆さんの関心が高いのは、夏の日中の気候分布です。夏の日中の気温分布は、東京湾から吹く海風が大いに関係しています。海風の先端部分を「海風前線」といいます。9時から10時くらいに東京湾から海風が吹きだし、12時から13時くらいになると、練馬付近を海風前線が通過します。14時くらいには埼玉県南部、中央部へと海風が進入します。これに対応して気温はどうなるのでしょうか。気温が最も高くなる13時から14時、海風前線は埼玉と東京の境にあります。注目したいのは、練馬付近にかかっていることです。

 「練馬区は夏は都心より1.5〜2℃高く、冬は1.5〜2℃低いが、その要因は?」というご質問がありました。

 冬、練馬区の気温が都心より低くなるのは、練馬区と都心の間に気温の急変域があるためです。


資料12

 では、夏はどうして暑いのでしょうか。気温分布の特徴として、東京湾の沿岸部は海風が吹くので、午後になると気温の上昇が頭打ちになります。そして、海風が“昇温”しながら内陸に向かってきます。埼玉県南部の海風前線とその内陸側は気温が高く、この一部分に練馬区がかかっています。このあたりは風が弱く、空気が滞留しやすいため、日射を受けた地表から加熱されやすく、気温が高くなると考えられます。さらに、都区部西部にも高温域があります。この辺りは相模湾から入ってくる海風と東京湾から吹く海風がぶつかっていて、やはり風が弱く、気温が高くなっています。言ってみれば、“海風が冷やし残したところ”と言っていいのかもしれません。(資料12)

 ここからは、短時間強雨について説明します。1999年7月21日に練馬を中心として、1時間に130ミリもの豪雨がありました。しかし、強い雨の範囲は東西方向に10km、南北方向に10km程度の極めて狭い範囲でした。のちに「練馬豪雨」と呼ばれ、これがひとつのきっかけとなって短時間強雨の研究が行われるようになりました。

 もう1つは、2008年8月5日、雑司ヶ谷で下水道工事中の作業員5人が、急な増水で流されて亡くなるという事故がありました。この時も1時間で100ミリ以上降っているのですが、強い雨が降ったのは5km程度の極めて狭い範囲でした。このような豪雨を契機に、短時間強雨が認識されるようになりました。


資料13

資料14

資料15

 直径数kmから10kmくらいの範囲というのは、だいたい積乱雲1個の直径に相当します。さらに雨量の時間変化をみると、10分間で20ミリを超えるような強い雨が、50分くらい継続してパタっと止んでいます。強烈な雨が急に降り出し、40〜50分間継続する。これが短時間強雨、いわゆるゲリラ豪雨の典型です。(資料13)

 ゲリラ豪雨の発生がどこで多いのか調べたことがあります。夏に東京を中心とした範囲で、1時間に20ミリ以上の強い雨を観測した事例は、対象とした11年間で226事例ありました。繰り返し発生している地域を調べたところ、都心はそんなに多くはなく、多いのは都区部の西部から埼玉との境目。このあたりで強い雨が多いことがわかり、さらに風向きによって強雨の起こる地域が異なることもわかりました。(資料14)

 強雨を降らせるような積乱雲ができる場合、下層では異なる向きの風が集まり、ぶつかりあって「収束帯」ができます。ここで上昇気流が作られ、水蒸気が凝結して雲粒、雨粒になり、積乱雲に発達すると、その下で強雨が発生します。積乱雲は集団をなして奥多摩や奥秩父から都区部へ移動してくることや、都区部で急に発達することもあり、突然のゲリラ豪雨となるのです。(資料15)

 最後になりますが、ゲリラ豪雨はしばし浸水をもたらします。各自治体では「浸水ハザードマップ」を作っていて、これはどういう地域でどれくらいの浸水が起こり得るのかを地図で示したものです。データの元になっているのは、日本の気象の歴史に残る一大豪雨だった東海豪雨です。ですから、最大限これくらい浸水すると考えればよいでしょう。ぜひ手元に置いて、ご家族で確認してみてください。練馬区のホームページからダウンロードできます。
練馬区浸水ハザードマップ(練馬区)

 その他、さまざまな気象情報をインターネットから得ることができ、レーダーの画像も見られますので、空模様が怪しいときにはチェックしてみましょう。自分の身を守るために、活用していただければと思います。

気象情報(レーダー、雨量等)

当日の資料はこちら(PDF)

参考:IPCC関連情報(環境省)